5.6 解軌道の方程式, 解が $ \mathbb{R}$ 全体に延長できることと中立安定性の証明

まず、実は少し問題含みであるけれど、多くのテキストに載っていて、 見通しのよい議論を紹介する。

$\displaystyle \frac{\D y}{\D x}=\frac{\dfrac{\D y}{\D t}}{\dfrac{\D x}{\D t}}
=\frac{-cy+dxy}{ax-bxy}
=\frac{y(dx-c)}{x(a-by)}.
$

これは変数分離形の方程式であるから、いつもの手順で解くことができる。 まず

$\displaystyle \frac{a-by}{y}\;\D y=\frac{dx-c}{x}\;\D x
$

としてから両辺を積分して

$\displaystyle \int \frac{a-by}{y}\;\D y=\int \frac{dx-c}{x}\;\D x.
$

途中を省略して

$\displaystyle \frac{y^a}{e^{by}}\frac{x^c}{e^{dx}}=$定数$\displaystyle .$ (5.5)

以上の議論は分かりやすいが、いくつか問題がある。

まず分母0の問題を片付けよう。次の定理が成り立つ。

\begin{jtheorem}[解は第1象限を飛び出ない]
$x(0)>0$\ かつ $y(0)>0$\...
...存在する限り) $x(t)>0$\ かつ $y(t)>0$\ が成り立つ。
\end{jtheorem}

発見的考察、というのをやろう。 $ x=0$ を (形式的に) (C.17) に代入すると

$\displaystyle \frac{\D x}{\D t}=0,\quad \frac{\D y}{\D t}=-cy.
$

これを眺めれば、$ x(t)=0$, $ y(t)=y(0)e^{-ct}$ という解を発見できる (代入して (C.17) の解であることが、 すぐ確認できる。 直観的には「被食者がいなければ捕食者は死に絶える」ということである。)。 「$ y$ 軸の正の部分は解軌道である」ということが分かった。

同様に $ y=0$ から $ y(t)=0$, $ x(t)=x(0)e^{at}$ という解を発見できる (「捕食者がいなければ被食者は限りなく増え続ける」ということである)。 「$ x$ 軸の正の部分は解軌道である」ということが分かった。

最後に、原点は平衡点であるから、原点1点からなる集合は解軌道である。

課題 5.6.1   定理5.2を証明せよ。 (ヒント: 第1象限は解軌道で囲まれていることが分かった。 〆は背理法と解の一意性定理を用いる。)

以下、$ x(0)>0$, $ y(0)>0$である解だけを考えることにすると、 $ x(t)>0$, $ y(t)>0$. ゆえに $ x(t)\ne 0$, $ y(t)\ne 0$ である。 微分方程式から

$\displaystyle \frac{\D x}{\D t}(-cy+dxy) =(ax-bxy)(-cy+dxy) =(ax-bxy)\frac{\D y}{\D t}$ (5.6)

である。この式を$ xy$ で割り算することに問題はない。

$\displaystyle \frac{a-by}{y}\frac{\D y}{\D t}=\frac{dx-c}{x}\frac{\D x}{\D t}.$ (5.7)

ゆえに、解が時刻 $ t^\ast$ まで存在するならば

$\displaystyle \int_0^{t^\ast}
\frac{a-by}{y}\frac{\D y}{\D t}\Dt
=
\int_0^{t^\ast}
\frac{dx-c}{x}\frac{\D x}{\D t}\Dt.
$

置換積分の公式から

$\displaystyle \int_0^{y(t^\ast)}\frac{a-by}{y}\D y
=
\int_0^{x(t^\ast)}\frac{dx-c}{x}\D x.
$

これで上の議論に合流できて (簡単のため $ x(t^\ast)$, $ y(t^\ast)$ を単に $ x$, $ y$ と書くことにすると)

$\displaystyle \frac{y^a}{e^{by}}\frac{x^c}{e^{dx}}=$定数$\displaystyle .$ (5.8)

関数 $ F(x,y):=\dfrac{x^cy^a}{e^{by+dx}}$ は、第1象限ではつねに正の値を取り $ (x,y)=(c/d,a/b)$ のとき最大値を取る。 $ (x,y)$$ x$ 軸や $ y$ 軸上の点に近づけると、 $ F(x,y)\to 0$.

$ 0<L<F(c/d,a/b)$ を満たす任意の $ L$ に対して、

$\displaystyle F(x,y)=L$ (5.9)

は閉曲線を表す (コンピューターで描いてみることを薦める)。 とりあえずこのことは認めることにしよう。

(もちろん図を描けば「明らか」である。証明できた人はレポートしよう。)


(5.9) が解軌道を表す方程式である。 後で、 $ (x(t),y(t))$ は周期関数で、 方程式の定める閉曲線の周りをぐるぐる回る (ゆえに解軌道は閉曲線に一致する) ことが分かるが、 現時点では解が存在する任意の時刻 $ t$ で、 $ (x(t),y(t))$ がその曲線の上にあることだけが分かっている。


課題 5.6.2 (自力で解くのは難しいかも13)   解が $ \mathbb{R}$ 全体で存在する (任意の時刻 $ t$$ x(t)$, $ y(t)$ が定まる) ことを示せ。

(ヒント: 色々なやり方があると思われるが、一つの方針を示す。 背理法を用いる。 解がある有限の $ T$ に対して、 $ [0,T)$ まで存在するが、$ T$ を超えては延ばせないと仮定する。 得られた解軌道の方程式から、任意の解軌道は有界であることが分かる。 それから、任意の解軌道の上で $ \bm{f}$ が有界であると分かる。 それから極限 $ \dsp\lim_{t\to T-0}(x(t),y(t))$ が存在することが導かれる。 そうすると解は $ t=T$ まで延長され、 さらに $ T$ を超えて延長できることが導かれる。 これは背理法の仮定に矛盾する。ゆえに $ [0,+\infty)$ で解が存在する。 -- 桂田 [22] §8.3 に少し書いておいた。)

課題 5.6.3   平衡点 $ \left(\frac{c}{d},\frac{a}{b}\right)$ は中立安定であることを 証明せよ。

桂田 祐史