C..2.5 特性根が虚数である場合

微分方程式

$\displaystyle y''+y=0$ (C.11)

の特性方程式は $ \lambda^2+1=0$ で、 特性根は $ \lambda=\pm i$ ($ i$ は虚数単位) である。 そこで定理 C.8 を機械的に適用すると、 一般解は

$\displaystyle y=A e^{i x}+B e^{-i x}$   $\displaystyle \mbox{($A$, $B$\ は任意定数)}$ (C.12)

となるが、$ e^{i x}$, $ e^{-i x}$ は一体何であろうか?

実は指数関数 $ e^x$ は、複素変数に一般化され、 その一般化された指数関数に対しても

$\displaystyle \frac{\D}{\D x}e^{\lambda x}=\lambda e^{\lambda x}$   $\displaystyle \mbox{($\lambda$\ は複素数の定数)}$

などの性質は保たれるので、 (C.18) は 確かに微分方程式 (C.17) の解を与えるのである。

要約: 複素変数の指数関数
指数関数は複素変数まで拡張できる。 その定義には色々な方法があるが、どれを採用しても結果は一致する。 ここでは $ z=x + i y$ ($ x$, $ y$ は実数, $ i$ は虚数単位) に対して

$\displaystyle e^z=e^{x + i y}:=e^x(\cos y+i\sin y)
$

と定義する。
  • 実変数に関する指数関数の拡張になっている。
  • 指数法則 $ e^{z+w}=e^{z} e^{w}$ が成立する。
  • 特に Euler の公式

    $\displaystyle e^{i y}=\cos y+i\sin y$ (C.13)

    が成り立つ。 $ y=\pi$ とすると $ e^{i \pi}=\cos\pi+i\sin\pi=-1+i\cdot 0=-1$ より有名な

    $\displaystyle e^{i\pi}+1=0
$

    が得られる。 (C.20) で $ y$ の代りに $ -y$ とした

    $\displaystyle e^{-i y}=\cos (-y)+i\sin(-y)=\cos y-i\sin y$ (C.14)

    と (C.20) を連立方程式とみて、

    $\displaystyle \cos y=\frac{1}{2}\left(e^{i y}+e^{-i y}\right),\quad
\sin y=\frac{1}{2i}\left(e^{i y}-e^{-i y}\right)
$

    を得る。
  • $ \lambda$ が複素数であっても

    $\displaystyle \frac{\D}{\D z}\left(e^{\lambda z}\right)=\lambda e^{\lambda z}.
$

  • 任意の複素数 $ z$ に対して

    $\displaystyle e^z=\sum_{n=0}^\infty \frac{z^n}{n!}
$

    が成立する。
  • $ \left\vert e^{x+ i y}\right\vert=e^{x}$.

$ p$, $ q$ が実定数の場合、 $ \lambda^2+p\lambda+q=0$ が虚根を持てば、 それは互いに複素共役である。ゆえに

$\displaystyle \lambda=a\pm i b$   $\displaystyle \mbox{($a$, $b\in\mathbb{R}$; $b\ne 0$)}$

と書ける。

$\displaystyle A e^{(a+ib)x}+B e^{(a-ib)x}$ $\displaystyle =A e^{a x}(\cos bx+i\sin bx) +B e^{a x}(\cos bx-i\sin bx)$    
  $\displaystyle =(A+B)e^{a x}\cos bx+i(A-B)e^{a x}\sin bx.$    

$ C_1=A+B$, $ C_2=i(A-B)$ とおくと、

$\displaystyle y=C_1 e^{a x}\cos bx+C_2 e^{a x}\sin bx.$ (C.15)

また $ A$, $ B$ は任意定数であることから、 $ C_1$, $ C_2$ も任意定数である21$ C_1$, $ C_2$ を実数の範囲のみで動かせば、 (C.21) は任意の実数値関数の解を表す。


補足     特性根が虚数である場合を定理の形にまとめておかなかったが、 そうしておくべきであった。

\begin{jproposition}
% latex2html id marker 2254
$p$, $q$\ を実定数とす...
...^{ax}\sin(bx)$\ と一意的に表される。
\end{enumerate}\end{jproposition}

この文書では (元々の対象者が大学1年生であることから)、 証明はなるべく初等的にする方針で説明しているが、 ここではまず線形空間の議論に慣れている人向けの証明をして、 それから初等的な(だがやや面倒な)証明を示すことにする。

$ n$ 階線形同次微分方程式に対し、

$\displaystyle y=C_1\varphi_1(x)+\cdots+C_n\varphi_n(x)$   ($ C_1$, $ \cdots$, $ C_n$ は任意定数)

が一般解であるとは、線形代数の言葉を用いると、 $ \varphi_1(x)$, $ \cdots$, $ \varphi_n(x)$ が 微分方程式の解空間 (解全体の集合のなす線形空間) の基底であることである。言い換えると

   解全体の集合$\displaystyle =\mathop{\mathrm{Span}}\nolimits \left\{\varphi_1(x),\cdots,\varphi_n(x)\right\}
$

が成り立ち、$ \varphi_1$, $ \cdots$, $ \varphi_n$ が1次独立であることである。



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桂田 祐史