前項の定理で、 という範囲を制限するものが出て来てしまったが、 これは仕方がないことである。
注: 実は有名な logistic 方程式でも解の爆発はおこる (本文中に解の存在範囲が限定されることを説明した)。 実際の現象とは関わりがない場合 (初期値が負であったり、 環境収容力より大きかったり) なので、普通は問題とされないが。
爆発が起らないための十分条件としては、 次のリプシッツ条件が 有名である23。
に関する Lipschitz 条件 |
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爆発が起らない場合は、 解は方程式が意味を持つ ( の定義域をはみ出ない) 範囲で存在することが知られている。 これについて、以下なるべく簡潔な説明を試みる。
を の領域または閉領域とする 24。 は連続で、微分方程式
以下、 初期値問題 (F.4), (F.2) の解とは、 その定義域が を左端とする区間 で、初期条件 と、 全体で微分方程式を満たすような関数 のことをいう。 また、 のことを解 の定義区間と呼ぶことにする。
初期時刻 の 十分近く (ある正の数 に対して、 を満たす範囲) では解 (局所解) が存在する、という定理があるわけだが、 それだけでは満足できない。出来る限り広い範囲での解の存在を保証してほしい。
ここではまず素朴な検討をしてみる。新たな初期値問題
に初期条件
| ||
ちょっと考えると、これを続けることで、 どこまでも解を延ばすことが出来そうだが、 有限の限界 があるかもしれない ( -- 正の数を足し続けても、 限りなく増えるわけではない)。
(F.4), (F.2) の解のうち、 真に大きな定義区間が存在しないような(それ以上延ばせない)解のことを、 (F.4), (F.2) の極大延長解と呼ぶことにする。 例えば
(D.2) | ||
(D.3) |
微分方程式の初期値問題の解の一意性が成り立つ場合 (例えば について局所 Lipschitz 条件が成り立つ) には、 極大延長解を構成するという方針で、 極大延長解の存在が証明できる (例えば高野 [40] の§5.3)。 この場合は最大延長解と呼ぶ方が適切かもしれない。
簡単のため、以下の議論では解の一意性が成り立つことを仮定する。
いくつかのテキストで、次のように説明されている。
しかし の境界に近づくとは、正確にはどういう意味であろうか。 正直なことを言うと、私にはよく分からない ( のとき、 は有界であるが、振動し、 は境界から離れたり近づいたりすることがありそうに思われる)。 定義を明記してあるテキストを見た覚えがない (単に私が不勉強なだけかもしれないが…)。 定義を書いていないということは、証明もきちんとは書かれていないことを意味する。
仕方がないので、私自身は、次のことを使っている。
極大延長解のグラフ上で が有界ならば、 が存在して、 は の境界点である (すなわち ( ) は と の両方と交わる)。
証明には、次の二つの定理を用いる。
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極大延長解の場合に、もしも が の内点であれば、 初期条件 の初期値問題を考えることで、 解が を超えて延長できることが導かれ、矛盾が生じる。 ゆえに は の境界点である。
桂田 祐史