2.2.0.1 (解説)

一般解という言葉は、常微分方程式のテキストには必ず現れる言葉であるが、 「どの微分方程式に対しても適用できる」 という意味で一般的に定義しようとすると、 意外と難しい言葉である。最低限、次の2点を理解すべきである (線形とそうでない場合に分けて考える、という1つのことなのかもしれない)。
(a)
(線形常微分方程式の場合はわかりやすい定義ができる) 線形同次常微分方程式の場合、 解全体の集合 (解空間と呼ばれることがある) は線形空間である、 という定理が成り立つ。例えば

$\displaystyle y^{(n)}+a_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+a_{n-1}(x)y'+a_{n}(x)y=0$ ( $ \heartsuit$)

という微分方程式に対して、 ある関数 $ \varphi_1$, $ \cdots$, $ \varphi_n$ が存在して、

( $ \heartsuit$) の解全体の集合$\displaystyle =\left\{C_1\varphi_1+\cdots+C_n\varphi_n\relmiddle\vert C_1,\cdots,C_n\in\mathbb{C}\right\}$ ( $ \spadesuit$)

が成り立つ。この事実を
( $ \heartsuit$) の一般解は

$\displaystyle y=C_1\varphi_1+\cdots+C_n\varphi_n$   ($ C_1$, $ \cdots$, $ C_n$ は任意定数)

である。
と表現する。厳密な意味は ( $ \spadesuit$) という集合の等式であるから、 次の2つが成り立つ、ということになる。
(i)
任意の $ C_1$, $ \cdots$, $ C_n$ に対して、 $ y=C_1\varphi_1+\cdots+C_n\varphi_n$ とおくと、$ y$ は( $ \heartsuit$)を満たす。
(ii)
( $ \heartsuit$) を満たす任意の $ y$ に対して、 ある $ C_1$, $ \cdots$, $ C_n$ が存在して、 $ y=C_1\varphi_1+\cdots+C_n\varphi_n$ が成り立つ。
(ここまでを正確に理解できれば、 「一般解というのは、微分方程式のすべての解を1つの式で表すものである」、 ということもできるだろう。 もっとも知らない人にそう言って正確に伝わるかどうか。 定義ではなく、1つの説明にすぎないと考えるべきだろう。)

以上は単独$ n$階の同次微分方程式の場合であるが、 $ 1$階連立の同次微分方程式

$\displaystyle \bm{y}'=A(x) \bm{y}$   ( $ \bm{y}=\bm{y}(x)$ がベクトル値関数で、 $ A(x)$ が行列値関数)

の場合も同様である。 また、線形非同次常微分方程式

$\displaystyle y^{(n)}+a_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+a_{n-1}(x)y'+a_{n}(x)y=\textcolor{...
... \quad\text{あるいは}\quad
\bm{y}'=A(x) \bm{y}+\textcolor{red}{\bm{b}(x)}
$

については、有名な

   非同次方程式の一般解$\displaystyle =$同次方程式の一般解$\displaystyle +$非同次方程式の任意の特解

という公式が成り立つ (知っている人も多いだろう、 万一知らなくてもとりあえず大きな問題ないだろう、 ということで、詳しい説明は略する)。 この場合も、常微分方程式のすべての解を1つの式で表現できる。
(b)
線形でない常微分方程式の場合でも、多くの場合に、 解全体の集合の「大部分」をひとまとめに式で表すことができる。 そのとき,そのような形で表された解を一般解と呼ぶ。 その一般解にまとめることが出来なかった、例外的な解を特異解と呼ぶ。 一般解は方程式の階数と同じ個数の独立なパラメーターを含むことが多い (その点については、線形微分方程式の場合と似ている)。 そのパラメーターのことを「任意定数」と呼ぶ。 「大部分」という言葉があるため、 (この場合の) 一般解は厳密に定義されているとはいえない (これは線形の場合と大きく異なるところで、注意が必要である)。

     特異解の具体的な例を1つあげておく。 クレローの微分方程式の典型例として有名な $ y=xy'-(y')^2$

$\displaystyle y=Cx-C^2$   ($ C$ は任意定数)

という一般解を持つ (確認: $ y=Cx-C^2$ とするとき、 $ xy'-(y')^2=x\cdot C-C^2=Cx-C^2=y$) が、 これ以外に (これら直線解の包絡線になっている)

$\displaystyle y=\frac{x^2}{4}
$

という特異解が存在する (念のため: 特異解は他にもある)。

必修課題 2.2.1 (F.2)   は変数分離型の微分方程式であり、 有名な解法がある。それに従い (G.1) を導け。

必修課題 2.2.2 (F.2)   は定数係数線形常微分方程式であり、 定数係数線形常微分方程式に対しては特性根の方法 という有名な解法がある (付録のC 節に説明してある)。 特性根の方法を説明し (定理を紹介せよ)、 それに従い (G.1) を導け。

桂田 祐史