3.1.0.1 Riemann による Laplace 方程式の Dirichle 境界値問題の議論のあらすじ

境界条件 $ u=g_1$ (on $ \rd\Omega$ ) を満たす $ u$ のうちで

$\displaystyle J[u]=\dint_\Omega\left(u_x^2+u_y^2\right)\DxDy$   (この $ J$ を Dirichlet 積分と呼ぶ)

を最小にするものは、 $ \Laplacian u=0$ を満たす。実際、$ v$ $ v=0$ (on $ \rd\Omega$ ) を満たす任意の関数とするとき、

$\displaystyle f(t):=J[u+t v]$   ( $ t\in\mathbb{R}$ )

$ t=0$ で最小となる (なぜならば $ f(t)=J[u+t v]\ge J[u]=f(0)$ )。 ところで

$\displaystyle f(t)=J[u]+2t\dint_\Omega\left(u_x v_x+u_y v_y\right)\DxDy
+t^2\dint_\Omega\left(v_x^2+v_y^2\right)\DxDy
$

であるから、$ f$ は2次関数であり、$ t=0$ で最小となるためには

$\displaystyle \dint_\Omega\left(u_x v_x+u_y v_y\right)\DxDy=0
$

が必要十分である。Green の積分公式3して

$\displaystyle \dint_\Omega(u_{xx}+u_{vv})v\;\DxDy=0.
$

これが任意の $ v$ について成り立つことから、 $ \Laplacian u=u_{xx}+
u_{yy}=0$ .

以上の議論から、 $ J[u]$ を最小にするような $ u$ を見出せば問題が解決することが分かる。 $ J$ は常に $ J\ge 0$ を満たすので、$ J$ が下に有界でありることは明らかで、 従って $ J$ の下限が存在する。 (この下限は最小値であるから)、最小値を与える $ u$ が存在する、と議論したのだが、 Weierstrass は「下限は最小値である」ことに疑義を示した (「数学解析」を学んだ人は、 いかにも Weierstrass がツッコミそうなところと思うかも)。 $ \qedsymbol$


残念ながら若くして亡くなった Riemann は、 Weierstrass の批判に答えることが出来なかった。 この論法による完全な証明は、 約 50 年後 (1900年頃) の D. Hilbertまで持ち越された。 そのやり方は、Laplace 方程式以外の多くの微分方程式に対しても拡張され、 今では「弱解の方法」と呼ばれる。

本当は、Dirichlet の原理は、 C. F. Gauss (1777-1855) がルーツで、 物理学の世界ではすでに知られていた考え方で、 それを Riemann が純粋数学に応用した、という見方をする人もいる。

弱解の方法は、数値計算とも相性がよく、 そこに基礎を置く W. Ritz による Ritz の方法は 1909 年に発表され次第、 重要な地位を占めている。 この Ritz-Galerkin 法は有限要素法の基礎ともなっている。

(差分法の基礎を、 導関数の差分商への置き換え+領域の格子への分割とまとめるのを真似ると、 有限要素法の基礎は、Ritz-Galerkin法+領域の有限要素への分割、 とまとめるのが良いだろうか。)

桂田 祐史
2017-08-11