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2.3.2 丸め誤差解析の要約

未知数の個数 $N$ がさほど大きくない場合に、Gauss の消去法に代表され る直接法は、連立 1 次方程式を解くための有力な手段である。

ところで、現在の計算機で普通に計算する場合、有限桁の演算精度しか持っ ていないことに起因する丸め誤差が生じることを避けられない。すると

のような要求が出てくることになる。(ここで、かっこ「」をつけて「解」と したのは、近似的な解でしかないということを表したかった。)

消去法の際に生ずる丸め誤差を解析すると、実際には大変うまく行くことが 多いのに、およそ現実とはかけはなれた、悲観的にならざるを得ない、と主張 する研究結果が出た。

von Neumann and Goldstein (1947) -- 素朴な(前進)誤差解析で Gau の消去法を解析した。これを信じると 100 元の方程式を解くのは絶望的と考 えられるが、実際には楽楽解けてしまう。

この状況を解決したのが、J.H.Wilkinson2.6 の研究である。彼は後退誤 差解析の手法を用いて、連立1次方程式を解く過程を徹底的に解析して、この 問題にケリをつけた。彼の得た重要な結論の一つは

ピボットの部分選択法を採用した Gauss の消去法では、ほとんどすべての 場合に2.7、相対残差 が小さくなることが保証される。例えば:

\begin{displaymath}
\frac{\Vert b-A x_\ast\Vert}{\Vert A\Vert \Vert x\Vert}\le \rho\beta^{-n},
\end{displaymath}

ただし用いた浮動小数点数の体系は $\beta$$n$ 桁であるとした。
というものである。この稿では、これを認めることにして、後はなるべく自前 で議論することにしよう。

要点は、

(残念ながら)残差が小さくても、誤差も小さいとは保証されない!
係数行列の条件数が小さければ、誤差が小さくなることが保証される。
の二点である。




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Masashi Katsurada
平成17年6月2日