G..4 線形安定性解析

(G.1) の平衡点 $ a$ の安定性の判定法として、 次の定理が使われることが非常に多い。


\begin{jtheorem}
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$f$\ は$C^1$級とする。
(\re...
...を持つならば、$a$\ は不安定である。
\end{enumerate}\end{jtheorem}

「ヤコビ行列って何ですか?」 (学生が持っている教科書の索引にヤコビ行列がない…ぶつぶつ ) $ \Omega\subset\mathbb{R}^n$, $ a\in\Omega$, $ f\colon\Omega
\to\mathbb{R}^m$ は微分可能とするとき、 $ f$$ a$ におけるヤコビ行列とは、$ m\times n$ 型の 行列

$\displaystyle f'(a)=\left(\frac{\rd f_i}{\rd x_j}(a)\right)
$

のことをいう。

力学系 $ \frac{\D x}{\D t}=f(x)$ においては $ m=n$ であることに注意しよう (微分方程式の左辺は $ n$ 次元, 右辺は $ m$ 次元で、それが一致するから)。 ゆえに $ f'(a)$$ n$ 次正方行列で、 (重複度を込めて数えて) $ n$ 個の固有値を持つ。 行列 $ f'(a)$ の成分は実数であるが、固有値には虚数が現れることもある。


この定理が、$ n=1$ の場合にも使えることを注意しておく。 $ n=1$ のとき、$ f$$ a$ におけるヤコビ行列は、 $ f$$ a$ における微分係数 $ f'(a)\DefEq
\dsp\lim_{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}$ そのものである。 またその固有値は、$ f'(a)$ (これは実数) である (一般に実数 $ A$を、$ 1\times 1$ 型の実行列とみなすとき、 $ Ax=\textcolor{red}{A}x$$ x=1$ に対して成り立つので、 $ \textcolor{red}{A}$$ A$ の固有値で、$ 1$ が固有ベクトルである。)。

ゆえに、定理を $ n=1$ の場合に限定すると、 「$ f'(a)<0$ ならば $ a$ は漸近安定、$ f'(a)>0$ならば $ a$ は不安定」 ということになる。


定理が成り立つのを納得したい、という人に向けて: $ f$$ a$ で微分可能であるとは

$\displaystyle \lim_{x\to a}\frac{f(x)-f(a)-f'(a)(x-a)}{\left\Vert x-a\right\Vert}=0
$

が成り立つことを意味する。ゆえに、$ x$$ a$ に近いとき

$\displaystyle f(x)\kinji f'(a)(x-a)+f(a)
$

が成り立つということは知っていると思う ($ m=n=1$ ならば、 関数のグラフは、その接線のグラフに近い、ということ)。 $ a$ が平衡点であれば $ f(a)=0$であるから

$\displaystyle f(x)\kinji f'(a)(x-a)
$

ということになる。 すると微分方程式は

$\displaystyle \frac{\D x}{\D t}(t)=f'(a)(x(t)-a)
$

で近似できる。

$\displaystyle \widetilde{x}(t):=x(t)-a,\quad A:=f'(a)
$

とおくと

$\displaystyle \frac{\D\widetilde{x}}{\D t}(t)=A\widetilde x(t).$ (G.2)

これは定数係数線形常微分方程式と呼ばれる方程式である。 これについての “常識的事項” を知ると、 上の定理が感覚的に納得できると思われるので、 次項にまとめておく。



桂田 祐史