2.4 LU分解の計算法

実は、Gauss の消去法は LU 分解を計算していることに相当する。 このことを理解すれば、LU 分解の計算法を知っていることになる。 Gauss の消去法が最後まで実行できるためには、 消去の過程で現れる対角成分が 0 にならないことが必要十分であるが、 この項では、それが常に満たされるとして議論する (その条件を吟味することは後の 2.7 で行う)。


Gauss の消去法では、 「行に関する基本変形」で係数行列を上三角行列に変形したが、 「行に関する基本変形」は基本行列を左からかけることに相当する (このことは基本変形を説明してある線形代数の教科書ならば、 必ず解説してあるはずであるが、 桂田 [4] の第4章にも書いておいた)。

$ n$ 次正方行列 $ A=(a_{ij})$$ (k,k)$ 成分 $ a_{kk}$$ (i,
k)$ 成分 ($ i>k$) を掃き出すには、 第 $ i$ 行から、 第 $ k$ 行の $ q_{ik}:=a_{ik}/a_{kk}$ 倍を引く、という操作をするわけだが、 これは

$\displaystyle {\cal L}_{ik}:=
I-q_{ik}E_{ik}
=
\left(
\begin{array}{ccccccc...
...{$k$行目} \\
\\
\longleftarrow\mbox{$i$行目} \\
\\
\\
\end{array}$

を左からかけることで実現される (ここで $ I$$ n$ 次の単位行列, $ E_{ik}$ は第 $ (i,
k)$ 成分のみ$ 1$ で、 他の成分は 0 であるような $ n$ 次正方行列)。 すると、$ (k,k)$ 成分 $ a_{kk}$ で、 第 $ k$ 列の $ k$ 行目以降 ($ (k+1,k)$, $ (k+2,k)$, $ \cdots$, $ (n,k)$ 成分) を掃き出す操作は、

$\displaystyle {\cal L}_k:= {\cal L}_{n,k} \cdots {\cal L}_{k+2,k} {\cal L}_{k+1,k}
$

を左からかけることで実現されることが分かる。

後で逆行列が必要になるので調べておこう。 まず

$\displaystyle {\cal L}_{ik}^{-1}
=I+q_{ik}E_{ik}
=
\left(
\begin{array}{ccc...
...{$k$行目} \\
\\
\longleftarrow\mbox{$i$行目} \\
\\
\\
\end{array}$

である。 これは計算で示すことも出来るし8、 行列の表す基本変形の意味から考えても明らかである。

次に

(1) $\displaystyle {\cal L}_k^{-1} = {\cal L}_{k+1,k}^{-1} {\cal L}_{k+2,k}^{-1} \cd...
...} & & 1 \ & & \vdots & & & \ddots \ & & q_{n,k} & & & & 1 \end{array} \right)$

である。これも基本変形の意味から明らかである。

上の操作 ( $ {\cal L}_{k}$ を左からかける) を $ k=1,2,\cdots,n-1$ の順に行うと、 $ A$ の対角線よりも下の部分は掃き出されて、上三角行列になる:

$\displaystyle {\cal L}_{n-1}{\cal L}_{n-2}\cdots {\cal L}_2 {\cal L}_1 A=$上三角行列$\displaystyle =:U.
$

簡単のため

$\displaystyle {\cal L}:={\cal L}_{n-1}{\cal L}_{n-2}\cdots {\cal L}_2 {\cal L}_1
$

とおけば、

(2) $\displaystyle {\cal L}A=U.$

$ {\cal L}_k$ が単位下三角行列であるから、$ {\cal L}$ も単位下三角行列である。 ゆえに $ {\cal L}$ は正則で、 逆行列 $ L:={\cal L}^{-1}$ ( $ ={\cal L}^{-1}_1{\cal L}^{-1}_2
\cdots{\cal L}^{-1}_{n-1}$) も単位下三角行列である。 ゆえに (2) に左から $ L$ をかけると、

$\displaystyle A=L U
$

となり、$ A$ の LU 分解が得られた。

実はより具体的に

(3) $\displaystyle L= \left( \begin{array}{cccccc} 1 & &&&\bigzerou \ q_{21} & 1 & ...
...&\ddots &\ddots \ q_{n1} & q_{n2} & \cdots & q_{n,n-1} & 1 \end{array} \right)$

であることが分かる (これをもっと前に持って来るのが良いと思うが、はてどうやろうか…)。

(3) (1) の証明と同様に基本変形の意味を考えても分かるが、 ここでは地道な計算で示してみよう。

$ k$ に対して

\begin{displaymath}
{\cal L}_1^{-1}\cdots{\cal L}_k^{-1}
=
\left(
\begin{array...
...q_{n1} & \cdots & q_{n,k} & \bigzerol & & 1
\end{array}\right)
\end{displaymath}

となることを帰納法で示す。

$ k=1$ のとき成り立つことは明らかである (式 (1) から、 $ {\cal L}_1^{-1}$ がこの形をしていることがすぐ分かる)。

次に $ k$ のとき成立すると仮定する。

    $\displaystyle {\cal L}_1^{-1}\cdots{\cal L}_k^{-1}{\cal L}_{k+1}^{-1}$ $\displaystyle = \left( \begin{array}{ccc\vert cccc} 1 & & \bigzerou \ q_{21} &...
...rol & & \vdots & &\ddots \ & & & q_{n,k+1}&\bigzerol & & 1 \end{array} \right)$
      $\displaystyle = \left( \begin{array}{cc} A & O \ C & I \end{array} \right) \le...
...nd{array} \right) = \left( \begin{array}{cc} A & O \ C & D \end{array} \right)$
      $\displaystyle = \left( \begin{array}{ccc\vert cccc} 1 & & \bigzerou \ q_{21} &...
...\ q_{n1} & \cdots & q_{n,k} & q_{n,k+1} & \bigzerol & & 1 \end{array} \right).$

これは $ k+1$ のときも成立することを示している。 $ \qedsymbol$


\begin{jremark}[実は後で必要のない事実だが良くある誤解を正...
...試みたりした) 参考情報として
残しておく。 \qed
\end{jremark}



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桂田 祐史