6.1 感染症の数理モデルとしての SIR モデル

感染症の数理モデルとして一躍有名になった SIRモデルは、 Kermack-McKendrick [19] (1927年) で提唱された (その基本的な部分は佐藤 [44] で読解されていて参考になる)。 感染症の数理の定番のテキストである稲葉他 [44] には、 COVID-19で広く知られることとなった西浦博氏の解説が含まれている。 また 2020年暮れに出版された [44]の増補版には、 國谷・稲葉による「COVID-19 の数理モデル解析」という章が加筆されている。

書籍でも論文でもないが、ネット (Newsweek) で公開された

西浦博(北海道大学大学院医学研究院教授)
【特別寄稿】「8割おじさん」の数理モデルとその根拠──西浦博・北大教授
THE NUMBERS BEHIND CORONAVIRUS MODELING
2020年6月11日(木)17時00分
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/8-39.php
は目を通すことを勧める (有名な「何も対策しなければ42万人死亡する」という話の根拠が説明されている)。 日本のCOVID-19の実データとの照らし合わせは、 神永 [22] に載っている (プログラムが紹介されている)。


SIRモデルでは、全人口を、

(1)
感受性者 (susceptible. まだ感染しておらず、免疫を持たないので、 感染者との接触により感染する可能性がある)
(2)
感染者 (infectious. 感染してまだ治っておらず、 接触することで感受性者を感染させる可能性がある)
(3)
除去者 (removed. 以前は感染していたが、回復したり死亡したり隔離されたりして、 もう人に移す可能性がなくなった、あるいは免疫を持つ者 -- オリジナルのモデルでは回復者 (recovered) とされていた)
の3つに分類する。

各時刻 $ t$ におけるそれらの人数を $ S(t)$, $ I(t)$, $ R(t)$ と表すことにする。 適当な仮定をおくと (これについては調べ物課題とする)、 次の微分方程式を満たすことが分かる。

\begin{subequations}% 2022-02-21 16:28の式群
\begin{align}&\frac{\D S}{\D t}=...
...}=\beta S I-\gamma I,\\ &\frac{\D R}{\D t}=\gamma I\end{align}\end{subequations}

ここで $ \beta$, $ \gamma$ は正の定数である。 例えば、$ S$, $ I$, $ R$ の単位を人、時間の単位を日とすると、 $ \beta$ の単位は $ ^{-1}$$ ^{-1}$, $ \gamma$ の単位は $ ^{-1}$ である。 $ \beta$ のことを(感染)伝達係数 (transmission coefficient), $ \gamma$ のことを回復率 (recovery rate) あるいは隔離率という。 $ \gamma$ は “平均感染性期間” ($ D$ と書かれることが多い) の逆数である。


\begin{jremark}[平均感染性期間の意味]
$D:=1/\gamma$\ をなぜ平均...
...、指数分布の平均の話ということだろうか。) \qed
\end{jremark}



桂田 祐史