1.4 Napier

(Napier については後で詳しく論じるが、 ここでは駆け足で説明する。)

John Napier (1550-1617, Scotland の Edinburgh に生まれ、 Edinburgh にて没する) は 1614 年に刊行した “Mirfici Logarithmorum Canonis Descriptio” ([10]) で対数表を発表し、 対数が天文計算に役立つことを示した。 この数表には、 $ 0^\circ$ から $ 90^\circ$ までの $ 1'$ ($ 1$分=$ 1/60$度) 刻みの 角 $ \theta$ に対して $ r\sin \theta$, $ r\cos\theta$, $ r\tan\theta$ (ただし $ r=10^7$) の値 ($ 7$桁精度) の対数を $ 8$ 桁の 精度で計算して載せてある。 後で詳述するように、 ある意味では実質的に $ 1/e$ を底とする対数であった。 “logarithm” という語は Napier の発案である。

カッツ p.469 から引用
対数の概念はおそらく、 乗法を加法や減法に変換する三角法の公式の利用にその起源を持つ。 ... (中略) ... このことを成し遂げようと、16世紀の天文学者たちは、 しばしば $ 2\sin\alpha\sin\beta=\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)$ な どのような公式を用いた。すると、たとえば、$ 4,378,218$ $ 27^\circ15'22''$ の正弦を掛け算したいときには、 $ \sin\alpha=2,189,109$ となる $ \alpha$ を 定め、 $ \beta=27^\circ15'22''$ とおき、 表を用いて $ \cos(\alpha-\beta)$ $ \cos(\alpha+\beta)$ を定めた。 このとき、この二つの値の差が求める積になり、実際に掛け算を行わなくてすむ。

多くの文献で、 Napier は 1594 年に対数の概念を発見したということが書いてある。 ボイヤー [5] では次の二つのことが指摘されている。
  • 「ネーピアは,対数の発明からその出版までには 20 年間もかかったといって」 いる
  • 「ちょうど、ネーピアがこの問題を思案していたとき、 スコットランド王ジェームス VI 世 (James VI) の侍医ジョン・ クレーグ (Craig, John) 博士がかれをおとずれ、 デンマークでは和と差の法を使用していることを知らせたのである。 クレーグは、それ以前の1590年、 ジェームスVI世が未来の花嫁(デンマークのアン)に会うため 代表団を伴ってデンマークへ航海したとき、 それに同行していたらしい。 一行はあらしのためティコ・ブラーエの天文台から程遠くない海岸に停泊し、 そこで天候の好転を待つあいだに、 ティコ・ブラーエの歓待を受けたのであった。 そのときに、 当時ティコの天文台ではすでに天文計算に自由に使っていた驚くべき方法 -- 和と差の法 -- についての話が出たと考えられる。 その話はネーピアを大いに元気付け、 したがってかれはいっそう努力を重ねた結果、ついに 1614 年…」

図 2: Mirfici Logarithmorum Canonis Descriptio (1614) の表紙

Napier の没後、1619年 Robert Napier によって、 遺稿『すばらしい対数表の作成方法』 “Mirifici Logarithorum Canonis Constructio” ([11]) が出版された。 ここでは小数が用いられていて、 小数点 “.” の使用を提案しているとか。

桂田 祐史
2019-03-01