2.2 $ \R^n$ の標準内積の定義と Schwarz の不等式

$ n$ を自然数とするとき、 $ x=(x_1,\cdots,x_n)^T$ , $ y=(y_1,\cdots,y_n)^T\in\R^n$ に対して

(2.1) $\displaystyle (x,y)\DefEq \sum_{i=1}^n x_i y_i$

とおき、この $ (x,y)$ $ x$ $ y$ の内積と呼ぶのであった。 次の命題の証明は明らかである。


\begin{jproposition}[内積の公理]
$\R^n$\ における内積について以...
...l x$, $y\in\R^n$\ に対して
$(x,y)=(y,x)$.
\end{enumerate}\end{jproposition}

我々は後で上の (1), (2), (3) を満たす $ (\cdot,\cdot)$ を 一般に内積と呼ぶことになる。 つまり内積の概念を一般化するので、 (2.1) で定義される $ (x,y)$ のことを $ \R^n$ 標準内積または Euclid 内積と呼ぶことにする。

$\displaystyle (x,y)=y^T x
$

が成り立つことに注意しておくと便利である。 例えば行列の積に関する結合則と、 公式 $ (A B)^T=B^T A^T$ から

$\displaystyle (A x,y)=y^T (A x)=(y^T A) x=(A^T y)^T x=(x,A^T y)
$

が分かる。 ゆえに $ A$ が実対称行列のとき $ (A x,y)=(x,Ay)$ が成り立つことが分かるが、 実は逆も成り立つ。

\begin{jproposition}[対称性の内積による特徴付け]
$A\in \R^{n\times...
...all x,y\in\R^n$\ に対して $(Ax,y)=(x,Ay)$.
\end{enumerate}\end{jproposition}
(i) $ \Then$ (ii) は済んでいる。(ii) $ \Then$ (i) を示す。 仮定から $ \forall x,y\in\R^n$ に対して $ (A x,y)=(x,Ay)$ であるが、 上で見たように $ (Ax,y)=(x,A^T y)$ であるから、

$\displaystyle (x,Ay)=(x,A^Ty).
$

これが任意の $ x$ について成り立つことから $ A y=A^T y$ が導かれる (実際 $ (x,Ay-A^T y)$ であるから、 $ x=A y-A^T y$ と選べば $ A y-A^T y=0$ )。 これが任意の $ y$ について成り立つことから $ A=A^T$ . $ \qedsymbol$

有名な Schwarz の不等式は、何と言っても基本的である。


\begin{jproposition}[Schwarz の不等式]
任意の $x$, $y\in\R^n$\ に対し...
...x$\ と $y$\ が $1$\ 次従属のときのみ成立する。
\end{jproposition}
(印象的ではあるが、幾何学的イメージの湧きにくい証明) $ x$ $ y$ $ 1$ 次独立ならば、任意の実数 $ t$ に対して $ tx+y\ne 0$ . ゆえに

$\displaystyle (tx+y,tx+y)>0.
$

左辺を展開して

$\displaystyle (x,x)t^2+2(x,y)t+(y,t)>0.
$

$ t$ についての $ 2$ 次式の符号が一定であることから

$\displaystyle \frac{\mbox{判別式}}{4}=(x,y)^2-(x,x)(y,y)<0.
$

ゆえに

$\displaystyle (x,y)^2<(x,x)(y,y).
$

一方、$ x$ $ y$ が一従属であるとき、 $ (x,y)^2=(x,x)(y,y)$ が成り立つこ とを確かめるのは容易である。 $ \qedsymbol$

桂田 祐史
2017-04-30