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2.2 Jacobi 法 -- 温故知新

1960 年代まで主流であった Jacobi 法について簡単に説明しよう。 これは実対称行列を $ 2$ 次元の回転変換により変形していって、対角成分以外 の成分の絶対値を小さくしていくというものであり、行列のサイズ $ N$ $ 10$ 程度の小さなものであれば現在でも実用的である。

なぜ「対角成分以外の成分の絶対値を小さくしていく」のか?これについて 説明しよう。まず次の定理は簡単であるが重要である。

\begin{jtheorem}
対角行列の固有値は対角成分である。
\end{jtheorem}

一般の行列の場合も次の定理が成り立つ。 おおざっぱにまとめると「行列の固有値は対角成分に近く、 そのずれは非対角成分の大きさによる」。

\begin{jtheorem}[Gerschgorin の円板定理 (1931)]\upshape
$A=(a_{i j})$\ に...
...分をなせば、その中に $k$\ 個の
固有値がある。
\end{jtheorem}

証明. $ A x=\lambda x$ , $ x=(x_1,\ldots,x_N)\ne 0$ とする。今 $ x$ の絶対値最大 の成分を $ x_k$ とする:

$\displaystyle \max_{i=1,2,\ldots,N}\vert x_{i}\vert=\vert x_k\vert.
$

方程式 $ A x=\lambda x$ の第 $ k$ 成分を書くと

$\displaystyle \sum_{j=1}^N a_{k j}x_j=\lambda x_k.
$

これから

$\displaystyle (\lambda - a_{k k})x_k=\sum_{1\le j\le N,j\ne k}a_{k j}x_j.
$

(以下 $ 1\le j\le N,j\ne k$ を単に $ j\ne k$ と書くことにする。) よって

$\displaystyle \vert\lambda-a_{k k}\vert\le \sum_{j\ne k}\vert a_{k j}\vert\left\vert\frac{x_j}{x_k}\right\vert
\le \sum_{j\ne k}\vert a_{k j}\vert,
$

したがって $ \lambda\in \Delta_k\subset\dsp \bigcup_{i=1}^N \Delta_i$ .

つぎに

$\displaystyle D=\diag(a_{11},\cdots,a_{NN}),
\quad
A_t=(1-t)D+t A$   $\displaystyle \mbox{($t\in[0,1]$)}$

とおくと、$ A_t$ に対する円板は

$\displaystyle \Delta_i(t)=\{z\in\C; \vert z-a_{ii}\vert\le t\sum_{j\ne i}\vert a_{ij}\vert\}
$

である。$ A_i$ の固有値は $ t$ に ついて連続的に変化し、$ t=0$ のとき $ \Delta_i(0)=\{a_{ii}\}$ にそれぞれ重 複個数だけある。$ t$ を増加させれば、いくつかの円板が拡大して合流するが、 $ k$ 個の $ \Delta_{i}(t)$ が合流すれば、その中に $ A_t$ $ k$ 個の固有値 が存在する。ゆえに $ t=1$ に達したとき、$ \Delta_i$ $ k$ 個が連結成分を なせば、その中に $ A_1=A$ $ k$ 個の固有値が存在する。 $ \qedsymbol$ $ \qedsymbol$


\begin{jcorollary}[狭義優対角行列は正則]\upshape
$N$\ 次正方行列...
...end{displaymath}が成り立てば、$A$\ は正則である。
\end{jcorollary}

証明. $ 0\not\in \dsp\bigcup_{i=1}^N\Delta_i$ より、 0 $ A$ の固有値ではない。ゆえに $ A$ は正則である。$ \qedsymbol$ $ \qedsymbol$

なぜか今のカリキュラムの盲点となってしまって、 紹介されることがないが、 「代数方程式の根は方程式の係数の連続関数である」 行列の固有方程式の係数は、行列の成分の連続関数であることは明らかだから、 「行列の固有値は行列の成分の連続関数である」。 Gerschgorin の定理はあざやかに連続性を見せてくれる。


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桂田 祐史
2015-12-22