以下に現れる行列は (時々「実」を書き漏らすけれど) すべて実行列とする。
実対称行列 に対して、 の固有値のうちで正であるものの個数、 負であるものの個数、 0 であるものの個数をそれぞれ , , と書くことにする。
は 次正方行列として、
である。
まず実対称行列の実直交行列による対角化に関する常識的事項 (線形代数で習うはず) を復習する (これがなくても Sylvester の慣性律の証明は出来るわけだが、 使った方が私には見通しが良いので…)。
が 次実対称行列ならば、実直交行列 ( ) と 実数 , , が存在して、
ゆえに に対して とおくと、 で、
こうして2次形式 を平方和 -- 定数何か の和 -- に変形できる。 平方完成と呼んでも良いだろうが、 これを2次形式の対角化という。 標語的に
ところで、上の対角化の議論の要点は
が平方和の形に書けるためには、 が実直交行列であることは必要ない (だから以下では でなく、 と書いたりする)。
が実直交行列でなければ、 は の固有値とは限らないが、 ( ) のうちの正であるものの個数、 負であるものの個数は、 で定まる。 それを定式化したものが、次の Sylvester の慣性律と呼ばれる定理である。
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この定理は、 少し後で紹介する「良くテキストに載っている証明」からすると自然な主張であるが、 やや正体が分かりづらいのでは?と思う。 次の定理とセットにして覚えることを勧める。
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杉原・室田 [8] には、 次の形の Sylvester の慣性律が載っている。
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結論部分が「〜に依らず、〜で定まる」でなくて、 具体的な等式である点は、 定理 11.2 と同じである。 対角化でなくて、変換した行列 の固有値の話にしてしまうのも、 少なくとも彼らの目的 (固有値の数値計算アルゴリズムの議論をする) にとっては使いやすいようである。
ここでは、 定理11.2 と 定理11.3 が同等であること (一方を認めれば他方がすぐに導かれること) を見てみよう。
まず、定理11.3 を認めよう。 次実対称行列 , 正則行列 に対して、 s.t. となったとすると、 の固有値は (対角成分である) , , であるから、
逆に定理 11.2 を認めよう。 実対称行列 , 正則行列 に対して、 とおく。 は実対称行列であるから、適当な実直交行列 で対角化できる: s.t. . このとき