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6.2 クラドニ図形

子供向けの理科の本には素晴らしいものが多い、と思っています 6。 自分が小学生の頃に読んだ

なぜなぜ理科学習漫画 全12巻, 集英社 (19..)
など7、 深く印象に残った本が色々あります。 最近見た
ニューワイドずかん百科 科学, 学研 (2006)
もなかなか楽しい本です。 その p.47「音をアート作品にする」に目が止まりました。 クラドニ図形 (Chladni figure) の紹介です。 そこには彫刻家である金沢健一氏の不思議な作品 -- それは 正方形や円形をした金属版の上に砂を撒き、 金属版をスーパーボールでこすって振動させることで、 砂が描く不思議なパターンの写真が載っています (「金沢健一」でググると色々ヒットしますので、 お試しを -- いつまで残っているかわかりませんが 1つだけ URL を紹介しておくと、 http://homepage.mac.com/mfukuda2/aiga67/aiga67.html)。 それはクラドニ図形と呼ばれる、という意味のことが書いてありました。

見た瞬間、ラプラシアンの固有関数の ふしのせん節線 (nodal line) であると思いました。

Wikipedia やウィキペディアによると8、 Ernst Florens Friedrich Chladni (1756-1827) は、 ドイツの物理学者で、 (今では当り前に受け入れられている) 隕石が宇宙からやって来ることを唱えたこと、 また音響学への貢献で有名だ、ということです (今回知るまでは全然知りませんでした)。

ネットで検索してみたら、すぐに YouTube に 実験の様子の動画がたくさんアップロードされていることを知りました (例えば ''Sound Waves'')。

Chladni 本人は、1787 年の著作『音響理論の発見』 [2] に、 多くの図版を載せています (http://greg.org/archive/2008/05/28/chladni_figures.html など)。

実験をするのは、残り時間も少ないことだし、 難しいかもしれないと思いましたが、 このような参考データがあるならば卒研テーマにしても大丈夫だろう、 と考えました。


…これを実験テーマにすることに関して、 25年前の私 (院生だった) だったら、 「それはラプラシアンの固有関数の節線であろう、 そういう当り前のことを確認するのはばかばかしい」 と言ったかも知れません。 でも当時先輩から何度もさとされたように、 「やってみないと分からない」 ことがあるものです。実際に学生に取り組んでみてもらって、 現在は「本当に固有関数の節なのかな?」とむしろ疑いも感じるようになっています。 さらに15年さかのぼって小学生の頃の自分に戻ると、 本に書いてあることを確認する実験も嬉嬉としてやっていました (それで時々、意外なことに遭遇しました)。 そういう素朴なノリで数学的なことが出来るのは面白い、と思っています。 学生にとって、ラプラシアンの固有値問題と言うのは、 波動方程式・熱方程式を Fourier の方法で解くために出て来る方便のような ところがあります。 それ自身が我々の眼前に登場しうることを強調してみたいです。

正方形領域 $ \Omega=(0,1)\times(0,1)$ における Dirichlet 境界条件 下の Laplacian $ \Laplacian_D$ について、

$ C \sin m\pi x\sin n\pi y$ ($ C$ は任意定数) は固有関数
ということは、少し勉強した人の多くが知っていることですが、 逆が成り立つ、つまり
固有関数は $ C \sin m\pi x\sin n\pi y$     ($ C$ はある定数)         これは間違い
であると (深く考えずに) 勘違いしている人が 失礼ながら少なくないのではないでしょうか。 実ははずかしながら、以前の私自身がそうで、 菊地・山本 [7] を読んで初めて正しく理解できました。

$ \Laplacian_D$ の固有値の重複度については、 以下のことを知識として知っていました。

正方形領域では実のところどうなのか、調べたことはありませんでした。 純粋に整数論的な話であり、有限の範囲ではしらみつぶしで調べられます。 書き捨てのプログラム http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/labo/report/open/square-eigenvalue2.cで調べたところ
2 1 :(1,1)
5 2 :(1,2),(2,1)
8 1 :(2,2)
10 2 :(1,3),(3,1)
13 2 :(2,3),(3,2)
17 2 :(1,4),(4,1)
18 1 :(3,3)
20 2 :(2,4),(4,2)
25 2 :(3,4),(4,3)
26 2 :(1,5),(5,1)
29 2 :(2,5),(5,2)
32 1 :(4,4)
34 2 :(3,5),(5,3)
37 2 :(1,6),(6,1)
40 2 :(2,6),(6,2)
41 2 :(4,5),(5,4)
45 2 :(3,6),(6,3)
50 3 :(1,7),(5,5),(7,1)
52 2 :(4,6),(6,4)
53 2 :(2,7),(7,2)
58 2 :(3,7),(7,3)
61 2 :(5,6),(6,5)
65 4 :(1,8),(4,7),(7,4),(8,1)
68 2 :(2,8),(8,2)
72 1 :(6,6)
73 2 :(3,8),(8,3)
74 2 :(5,7),(7,5)
80 2 :(4,8),(8,4)
82 2 :(1,9),(9,1)
85 4 :(2,9),(6,7),(7,6),(9,2)
89 2 :(5,8),(8,5)
90 2 :(3,9),(9,3)
97 2 :(4,9),(9,4)
98 1 :(7,7)
100 2 :(6,8),(8,6)
101 2 :(1,10),(10,1)
104 2 :(2,10),(10,2)
106 2 :(5,9),(9,5)
109 2 :(3,10),(10,3)
113 2 :(7,8),(8,7)
116 2 :(4,10),(10,4)
117 2 :(6,9),(9,6)
122 2 :(1,11),(11,1)
125 4 :(2,11),(5,10),(10,5),(11,2)
128 1 :(8,8)
130 4 :(3,11),(7,9),(9,7),(11,3)
136 2 :(6,10),(10,6)
137 2 :(4,11),(11,4)
(以下略)
のようになっています。 $ m^2+n^2$ が 100 万以下であるような $ (m,n)$ について、 $ m^2+n^2$ の値が一番たくさん重複しているのは、 $ m^2+n^2=801125$ の場合で、$ (m,n)$ の組は

      $\displaystyle (10,895),(95,890),(127,886),(158,881),(193,874),$
      $\displaystyle (230,865),(241,862),(335,830),(370,815),(430,785),$
      $\displaystyle (458,769),(463,766),(529,722),(545,710),(554,703),$
      $\displaystyle (610,655),(655,610),(703,554),(710,545),(722,529),$
      $\displaystyle (766,463),(769,458),(785,430),(815,370),(830,335),$
      $\displaystyle (862,241),(865,230),(874,193),(881,158),(886,127),$
      $\displaystyle (890,95),(895,10)$

で、$ 32$ 重! これは1個だけで、次が $ 24$ 重で(急に少なくなる)、これ は$ 75$ 個あります。 $ 20$ $ 34$ 個, $ 18$ $ 83$ 個, $ 16$ $ 1044$ 個, $ 15$ $ 3$ 個, $ 14$ $ 19$ 個, $ 12$ $ 2684$ 個, ....重複するのは珍しくもなんともないという感じですね。


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桂田 祐史
2015-12-24