8 参考書案内

常微分方程式は非常に豊富な内容があるため、 ほとんどのテキストは、説明する内容を絞っている。 その絞り方は千差万別である。そのため、 自分の目的にあったテキストを書名だけから見つけ出すのは意外と手間がかかる。 自分で探す場合は、図書館か大型書店に行って色々見比べることを勧める。


最近は電子図書が普及して来て、図書館でオンラインで読めるものもあるので、 必要に応じて辞書代わりに使うことも可能になってきた。


さすがに、簡単な微分方程式の初等的な解法は、 どんな本を読んでも大して変わらないだろう (「常識だ」という理由で省略されるおそれはあるけれど)。 ネットでちょっと確認するという目的には、 例えば桂田 [22] がある。 明治大学学生の場合は、 丸善 eBook Library で「微分方程式」を検索すると、 何冊か本がヒットして閲覧可能である。

(「桂田研資料室」 には、 ゼミ向け(一般公開していない)の資料も置いてある。)


以下、読んで学ぶ、という観点から何冊か紹介する。


いわゆる教科書的な本として、例えば笠原 [40] を勧めておく。 定理とその証明がきちんと書かれているが、 力学系の相図もたくさん掲載されている。 著者は多くの良質なテキストを著している人で、 微分方程式については笠原 [25] という読み物 (こういう本は珍しい) もある。

最近知った竹之内 [26] (新しい本という訳ではない) も、 似た感じの本である。 こちらは安価な文庫版があり、持ち運びに便利という利点がある。


ブラウン [42], [42] (二巻本) は、 微分方程式の基本的な事項を分かりやすく解説してあるだけでなく、 有名な現象のモデルである微分方程式を数多く取り上げている。 また、初等的な数値解法についても述べられている (プログラミング言語の選択が今風ではないけれど)。 基礎と応用のバランスがよいと思う。私自身はやったことはないが、 数学科の学部のゼミで採用している先生を見たことは何度かある。 ゼミで読みたいという場合は相談に応じる。


[42], [42] は分量が多いので通読に向かないかもしれない。 もう少し薄い本を1冊きちんと読み切りたいという人には、 俣野 [31] を推奨する。 力学系の記述も多く、現象数理学科の学生に向いていると思う。


以下は、特定のテーマについて調べ物をする場合に参考になるものを紹介する。


解の存在や一意性など、基礎的なことは多くのテキストで言及されているが、 私自身が学んだ経験から言うと、 説明が分かりやすくないとか (読み手の実力不足だと言われると辛いよね)、 実際にそれを適用しようとすると使いにくいとか、 意外と苦労させられる。 今回手元にある本を見直して、高橋[1], [29] は良さそうと感じた。 どちらも丸善 eBook に入っていて、 明治大学図書館ではオンラインで読むことができる。 それから、 私が学生の時に参考書として紹介されることの多かった コディントン・レヴィンソン [30] は、 豊富なページ数 (二巻本) の中で重要なことをゆったりと解説してある本で、 あらためてさすがだと感じた。


常微分方程式の数値解析のテキストとしては、 三井 [31], [32], 三井・小藤・齊藤 [44], さらに専門書であるハイラー・ネルセット・ヴァンナー [34], [35], Hairer-Lubich-Wanner [36] をあげておく。 数値解法の公式をどうやって導くかという原理的な話については、 筆者には一松 [37] が分かりやすかった (微積分の本に書いてあるのは意外だけれど面白い)。


プログラムが載っている本については、お勧めが難しいが (プログラミング言語の好みとかあるだろうから)、 神永 [22], 小川・宮路 [42] を推しておく (どちらもPythonプログラムが載っている)。


入門段階を終えて、 これらの本では不足する場合は「自分の目的に応じて探して下さい」となる。 以下は参考まで。


比較的新しい坂井 [39] は非常に内容が豊富であり (その点については比較する本が思いつかないほどである)、 それが大きな長所である。 欠点はそれが300ページ程度に詰め込まれているため、 やや言葉足らずで読みにくいかもしれない、ということ。 ネット評では誤植の多さも指摘されている (まだ出て間もないし…)。 ある程度地力のついている人向けかもしれない。 (私自身は、最初はイマイチと思ったが、何度かめくっているうちに、 「へー、そうなんだ」が多く、評価が上がりつつある。) これも丸善 eBook に入っているので、オンラインで読むことが可能である。 辞書的な利用が可能かもしれない。



桂田 祐史