5.1.3.3 微分方程式について、最後に一言

実は、世の中のすべての力学系は上に述べたようなものだけで十分説明し 切れると(暗黙のうちに)信じられていた時期があります。日常生活のレベ ルでは、今でもそう信じている人が多いでしょう。例えば、気象現象などで 長年の平均値からずれたこと-- 異常気象 -- が生じるのは、何かこれまで にはなかった「異常な」原因があるに違いない、という推論をしたりします。 これは、原因がシンプルならば結果もシンプルである(定常状態に落ち着い たり、きちんと周期的に変動するようになる)と信じているためです。でも、 今ではこの「思い込み」が本当に正しいかどうかは、個々の場合を詳しく調 べてみないと分からない、と考えられようになりました。それはコンピューター・シミュ レーションを通じてカオス(chaos、混沌)と呼ばれる現象が見つかったからで す。それはシンプルなメカニズムで支配される系が、極めて複雑で、ほとん ど予測不可能と言える結果を生じさせることを呼びます。カオスの発見の物 語は、コンピューターと科学の研究の関係について色々考えさせてくれる、面白いも のです。



桂田 祐史