6.1 はじめに状況説明

最初に重要なことを書く。

長方形領域 $ \Omega=(0,W)\times (0,H)$ で、Dirichlet条件、 Neumann境界条件下のLaplacianの固有値問題を数値計算で解く意味はほとんどない。

厳密解はもちろん (有名で、多くのテキストに載っている)、 差分法で近似した場合の固有関数・固有値も簡単な式で求まるためである。

特に固有関数は、微分作用素のそれと一致する。

実を言うと、私はそのことに気づかず、 学部卒研の課題として与えてしまったことがある。 「先生、誤差がほとんど0です。」という (本当は当たり前だけれど、 そのときの私には) 驚愕の報告があって大騒ぎだった。20年以上前の笑い話。

まとめたものを書いたっけ??


というわけで Laplacian (Laplace作用素) の固有値問題を差分法で解くのは今ひとつ面白みがない (もちろん複雑な形状の領域を持ってくれば難しくなるが、 今度は逆に難しすぎる)。


少し唐突かもしれないが、 重調和作用素 $ \Laplacian^2=\left(\frac{\rd ^2}{\rd x^2}
+\frac{\rd^2}{\rd y^2}\right)^2$ の場合が面白い。 実は私のゼミで、卒研や修士論文のテーマで取り組んだ人が何人かいる。 これはいわゆる Chladni 図形 (クラドニ図形) のシミュレーションとみなすことが出来る。 長方形領域でもそんなに簡単ではない。 テキストによっては “単純支持” という境界条件を与えて、 変数分離で厳密解を求めてしまっているものがあるが、 より自然な設定である (だから重要と考えられる) free edge の場合は、 変数分離がうまくいかず、 境界条件の方程式がかなり複雑になり、 差分法のプログラムを書くのも一苦労する。 でもなんとか出来た、と言うのが以下の平野さんの修論である (係数行列の導出に半年近くかかったという力作)。

一方、この Chladni 図形の問題は、 Ritzの方法で有名な Walter Ritz の記念碑的な論文 [5] で、 数値計算により解かれたことで有名である (コンピューターのない時代の、ほとんど神話のような出来事)。 その方法は有限要素法の基礎にもなっている。 固有値問題の数値計算には有限要素法がおすすめである。 正多角形板の Chladni 図形は古くから色々実験的に調べられてきたが、 それについて有限要素法でシミュレーションしたのが以下の遠藤さんの修論である。

  1. 平野裕輝 『正方形領域における重調和作用素の固有値問題 -- 差分法によるクラドニ図形の解析』     MATLAB プログラムが含まれている。
  2. 遠藤小欽「正多角形板の Chladni 図形」     FreeFem++プログラムが含まれている。(MATLABとはあまり関係がない。)

(間にもう一人いるのだけれど、公開承諾をもらい損ねたような記憶が… 失敗したなあ。)



桂田 祐史