D..3 平衡点の安定性、漸近安定性


\begin{jdefinition}% latex2html id marker 1099
[平衡点の安定、不安定]
...
...安定でないことを「不安定である」という。
\end{jdefinition}

つまり、任意の正の数 $ \eps$ に対して、 $ a$ に十分近いところから出発した任意の解は、 $ a$ から距離 $ \eps$ の範囲に止まる、ということである。


(私が学生で、このあたりのことを勉強したとき、「リャプノフの意味で」 というのを見て、「そうでない意味で安定というのは、例えばどういうの?」 と気になった。 でもそういうのを目にすることはなく、 最近は「リャプノフの意味で」というのは省略されるのが多くなった。 時間が経って、言葉が定着したということなのだろう。)


\begin{jdefinition}% latex2html id marker 1106
[平衡点の漸近安定性]
(\...
...o\infty}x(t)=a
\end{displaymath}を満たすことをいう。
\end{jdefinition}

判定法として、次の定理が使われることが非常に多い。


\begin{jtheorem}
% latex2html id marker 1114
$f$ は$C^1$級とする。
(\re...
...正の実部を持つならば、
$a$ は不安定である。
\end{jtheorem}

「ヤコビ行列って何ですか?」 (学生が持っている教科書の索引にヤコビ行列がない…ぶつぶつ ) $ \Omega\subset\mathbb{R}^n$, $ a\in\Omega$, $ f\colon\Omega
\to\mathbb{R}^m$ は微分可能とするとき、 $ f$$ a$ におけるヤコビ行列とは、$ m\times n$ 型の 行列

$\displaystyle f'(a)=\left(\frac{\rd f_i}{\rd x_j}(a)\right)
$

のことをいう。

力学系 $ \frac{\D x}{\D t}=f(x)$ においては $ m=n$ であることに注意しよう (微分方程式の左辺は $ n$ 次元, 右辺は $ m$ 次元なので)。 ゆえに $ f'(a)$$ n$ 次正方行列で、(重複度を込めて) $ n$ 個の固有値を持つ。 行列 $ f'(a)$ の成分は実数であるが、固有値には虚数が現れることもある。


この定理が、$ n=1$ の場合にも使えることを注意しておく。 $ n=1$ のとき、$ f$$ a$ におけるヤコビ行列は、 $ f$$ a$ における微分係数 $ f'(a)\DefEq
\dsp\lim_{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}$ そのものである。 またその固有値は、$ f'(a)$ (これは実数) である (一般に実数 $ A$を、$ 1\times 1$ 型の実行列とみなすとき、 $ Ax=\textcolor{red}{A}x$$ x=1$ に対して成り立つので、 $ \textcolor{red}{A}$$ A$ の固有値で、$ 1$ が固有ベクトルである。)。

ゆえに、定理を $ n=1$ の場合に限定すると、 「$ f'(a)<0$ ならば $ a$ は漸近安定、$ f'(a)>0$ならば $ a$ は不安定」 ということになる。




桂田 祐史