7.2 Riesz の表現定理

(この節は読みやすさは別にして十分整理できている。)

$ K=\R$ または $ \C$ とし、 $ X$ $ K$ 上の内積空間 (pre-Hilbert 空間)、 $ (\cdot,\cdot)_X$ をその内積とする。

$ X$ の双対空間 $ X'$ は (位相線形空間の一般論に従って)

$\displaystyle X'=\{T; T\colon X\to K$   連続線形$\displaystyle \}
$

として定義されるが、今の場合 $ X$

$\displaystyle \Vert x\Vert _X=\sqrt{(x,x)_X}
$

をノルムに持つノルム空間であるから、$ X'$ 自身

$\displaystyle \Vert T\Vert _{X'}=\sup_{x\ne 0}\frac{\vert T(x)\vert}{\Vert x\Vert _X}
$

というノルムにより Banach 空間になる。

$ u\in X$ に対して、

$\displaystyle T_u\colon X\ni x\mapsto (x,u)\in K
$

で定義される $ T_u$ $ X$ 上の連続線型形式である。実際、 線形性は明らかで、連続性も Schwarz の不等式から

$\displaystyle \vert T_u(x)\vert=\vert(x,u)\vert\le \Vert u\Vert \Vert x\Vert$   $\displaystyle \mbox{($x\in X$)}$

という有界性の条件が得られて証明できる。これから $ \Vert T_u\Vert _{X'}\le \Vert u\Vert _X$ が分かるが、実は等号が成り立つ:

(7.1) $\displaystyle \Vert T_u\Vert _{X'}=\Vert u\Vert _X.$

(実際 $ \Vert T_u(u)\Vert _X/\Vert u\Vert _X=\Vert u\Vert _X$ であるから $ \Vert T_u\Vert _{X'}\ge
\Vert u\Vert _X$ という逆向きの不等式が得られる。)

$ X\ni u\mapsto T_u\in X'$ という写像を $ J$ で表す。つまり

$\displaystyle J (u)=T_u$   $\displaystyle \mbox{($u\in X$)}$$\displaystyle .
$

$ J$ $ K=\R$ のとき線型、$ K=\C$ のとき共役線型となる。すなわち、

  $\displaystyle J(u+v)=J(u)+J(v)$   $\displaystyle \mbox{($u,v\in X$)}$$\displaystyle ,$    
  $\displaystyle J(\lambda u)=\overline\lambda J(u)$   $\displaystyle \mbox{($u\in X$, $\lambda\in K$)}$$\displaystyle .
$    

(7.1) から $ J$ は等長写像 ( $ \Vert J u\Vert _{X'}=\Vert u\Vert _X$ ) であるから、

$\displaystyle \Vert J(u)-J(v)\Vert=\Vert J(u-v)\Vert=\Vert u-v\Vert$   $\displaystyle \mbox{($u,v\in X$)}$

となるので、$ J$ は連続かつ $ 1$ $ 1$ 写像である。

ここまでをまとめておこう。

\begin{jlemma}[内積空間からその双対空間への標準的な単射]
$K...
...役線型な等長写像 (ゆえに連続かつ単射) である。
\end{jlemma}

$ X$ が Hilbert 空間である場合は、$ J$ は全射になる。 すなわち次の定理が成り立つ。


\begin{jtheorem}[Riesz の表現定理]\upshape
$K=\R$\ または $K=\C$\ で...
...$\ の場合、$J$\ は Hilbert 空間の同型写像である。
\end{jtheorem}

(この定理の証明はとりあえず略。関数解析のテキストならば必ず載っている。 あるいは

http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/labo/text/functional-analysis-1.pdf
を見よ。)


\begin{jcorollary}[Hilbert 空間の共役空間は Hilbert 空間]
$X$\ を Hi...
...
\end{displaymath}を内積とする Hilbert 空間となる。
\end{jcorollary}

特に $ X$ が実 Hilbert 空間のとき、 $ J\colon X\to X'$ は Hilbert 空間の同型写像である。

Riesz の定理から Hilbert 空間は反射的であることも示せる (ここでは証明略)。

次の命題もよく使われる。

\begin{jproposition}[有界準双線型形式と有界線型作用素の対応]
...
...式全体と $L(X)$\ 全体とが一対一に対応する。
\end{jproposition}

証明

任意に $ v\in X$ を固定するとき、 $ X\ni u\mapsto a(u,v)$ $ X$ 上の連続線型形式である。 これを $ T v$ と書くと、 $ T\colon X\to X'$ という写像が定義できるが、 $ T$ は明らかに共役線型である。また

$\displaystyle \sup_{\Vert v\Vert _X=1}\Vert T v\Vert _{X'}
=\sup_{\Vert v\Vert...
...rt _X=1}\sup_{\Vert u\Vert _{X}=1}\vert a(u,v)\vert
\equiv\Vert a\Vert<\infty
$

であるから、$ T$ は有界でもある。 $ A:=J^{-1}T$ とおくと、 $ A\colon X\to X$ は二つの有界共役線型作用素の積であるから有界線型作用素であり、

$\displaystyle a(u,v)=(T v)(u)=(u,J^{-1} T v)=(u, A v)$   $\displaystyle \mbox{($u,v\in X$)}$

となる。 $ \qedsymbol$


\begin{jcorollary}[Hilbert 空間における有界線型作用素の Hilbert ...
...h}を満たす $A^\ast\in L(X)$\ が一意的に存在する。
\end{jcorollary}

証明

$ a(u,v):=(A u,v)$ とすると、$ a$ は 有界準双線型形式になるので、 上の命題を適用して、 $ a(u,v)=(u,A^\ast v)$ を 満たす有界線型作用素 $ A^\ast$ が存在する。 $ \qedsymbol$

桂田 祐史
2017-04-30