4.2 『原論』の重要性

原論は聖書の次に多くの版を重ねている書物だという説もあるくらいで、 定評ある日本語訳 [61] もあり2、 数学を学ぶ人は一度は目を通すことを勧めたいが、 事前に多少の説明は必要であろう (書かれていることは少々回りくどくはあるものの非常に明瞭で、 時間と努力さえ惜しまなければ理解可能であるが -- これは本当は驚くべきことだ)。

ギリシャ時代の数学的論稿は、ボレルやルベーグの叢書、 または十七世紀や十八世紀のスタイルと比べ、 その正確さにおいて限りなく勝っている。 シシリーのギリシャ人アルキメデスやユークリッドの文章は 清水のように澄み切っている。 -- L. シュヴァルツ ([61])

論証をともなう数学、つまり数学的真理を数学的に定義された言葉を 用いて命題の形にまとめ、少数の基礎的事実から論理によって 証明するというものは、古代ギリシアに生まれた。 それ以前に、またそれ以外のところで論証数学が生まれた痕跡はない。

ギリシアの数学はヨーロッパでは一時忘れられたが、 アラビア世界に継承され3、 約1000年の時を経てルネッサンスにヨーロッパに里帰りし、 現代の数学に直接通じる基礎となった。 この意味で現代数学はギリシア数学の直系の子孫と言える。

原論は執筆時までのギリシア数学の集大成と言うべき豊富な内容を持っているが 4、何より重要なのは、定義、公理、公準から厳密な論理 に基づいてすべての定理を導いた (証明5した) そのスタイルにあるといえる。

この原論のスタイルは数学はもちろんであるが、 多くの書物の規範となった。

桂田 祐史
2019-03-01