3 E.T.ベル「数学をつくった人びと」 [56]

内容は副題にもあるとおり、 古代ギリシャから 19 世紀の Poincaré に到るまでの大数学者達の 中から何人かを選んで、 後世に大きな影響を与えた業績と彼らがいかに人生を送ったかを紹介するものである。 大学の学部学生だった頃、 神田の古書街で東京図書から出ていた 4 冊版を入手して夢中で 読んだのが懐かしく思い出される。

今回紹介するにあたって、 昨年 (2003) 出た文庫本 (3冊) を買い求めてパラパラめくってみた (この本を文庫にしたハヤカワは流石だなあ)。 現在の筆者の目から見ると気になるところがないではないけれど (書かれたのが 1937 年 -- 70 年近く前 -- というところが大きいのかな)、 読み物として見た場合の総合的な評価はやはり非常に高いと思う。 数学科の学生はぜひ読んで欲しい。

以下蛇足。

気になる点のうちの一つを書いておこう。 応用数学を守備範囲としている筆者からすると、 数学上の業績の評価について、 この本には 20 世紀の数学者にありがちの「純粋数学礼賛」 バイアスがかかっていると思う。 数学の膨大な成果からごく少数のものを選んで紹介するしかないので、 著者ベルが自分の好みで題材を選ぶのはやむを得ない。 しかし、その選択について彼は余計な正当化をしているように思える。 この点は学生にこの本を勧める際に危惧を抱くところである。

事実はこうだ。 この本で紹介されているような 19 世紀までの数学者の多くは、 「純粋数学」だけでなく「応用数学」に分類されるような領域でも 多くの仕事をしている。 筆者は、彼ら (大数学者達) 自身がその重要性を信じていなければ、 あれだけの仕事は出来ないはずだと考える。

桂田 祐史
2019-03-01