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D.3.2 $ N=2$ の場合の $ e^{t A}$, $ e^{t A}\vec x_0$

今回の問題を理解するため、行列の指数関数を $ N=2$ の場合に詳しく解析 してみる。 $ A=\ttmat{a}{b}{c}{d}$ として、 $ A$ の固有方程式 $ \lambda^2-(a + d)\lambda + a d - b c = 0$ の根を判別 して場合分けする。

(I) 相異なる 2 実根 $ \lambda_1$, $ \lambda_2$ を持つ場合

$ u_i$$ \lambda_i$ に属する $ A$ の固有ベクトルとする($ i=1,2$) とす ると、$ u_1$, $ u_2$ は線形独立になるので、任意の $ x_0 \in \R^2$

$\displaystyle x_0 = c_1 u_1 + c_2 u_2
$

$ u_1$, $ u_2$ の線形結合で表すことが出来る。これから

$\displaystyle A^n x_0 = A^n(c_1 u_1 + c_2 u_2) = c_1 A^n u_1 + c_2 A^n u_2
= c_...
... + c_2 {\lambda_2}^n u_2
= {\lambda_1}^n (c_1 u_1) + {\lambda_2}^n (c_2 u_2) ,
$

$\displaystyle e^{t A} x_0
= e^{\lambda_1 t} (c_1 u_1) + e^{\lambda_2 t} (c_2 u_2).
$

(つまり各 $ u_i$ 成分 $ c_i u_i$ に関しては $ e^{\lambda_i t}$ をかけると いう単純な作用になる。)

行列の言葉で書くと、 $ P=(u_1\; u_2)$ と置くと、

$\displaystyle P^{-1}A P = \ttmat{\lambda_1}{0}{0}{\lambda_2}, \quad
P^{-1}A^n P...
...a_2^n}, \quad
P^{-1}e^{t A} P = \ttmat{e^{\lambda_1 t}}{0}{0}{e^{\lambda_2}t}.
$

これから

$\displaystyle e^{t A}= P\ttmat{e^{\lambda_1 t}}{0}{0}{e^{\lambda_2 t}}P^{-1}.
$

(II) 重根 $ \lambda_0$ を持つ場合

この場合は、一次独立な固有ベクトルが 2 つ取れるか、1 つしか取れない かで、二つの場合に別れる。

(II-i) 重根 $ \lambda_0$ に属する二つの一次独立な固有ベクトル $ u_1$, $ u_2$ が存在する場合

上と同様にして $ P^{-1}A P=\ttmat{\lambda_0}{0}{0}{\lambda_0}$, これは実は $ A=\ttmat{\lambda_0}{0}{0}{\lambda_0}$ ということだから、

$\displaystyle A^n = \ttmat{\lambda_0^n}{0}{0}{\lambda_0^n}, \quad
e^{t A} = \ttmat{e^{\lambda_0 t}}{0}{0}{e^{\lambda_0 t}}, \quad
e^{t A}x_0=e^{\lambda_0 t}x_0.
$

(II-ii) 重根 $ \lambda_0$ に属する一次独立な固有ベクトルが一つしか取 れない場合

仮定より $ \R^2\ne\ker(\lambda_0 I - A)$ であり、 $ u_2\in\R^2\setminus
\ker(\lambda_0 I - A)$ が存在する。そこで $ u_1=(A-\lambda_0I)u_2$ とお くと $ u_1\ne 0$.

一方で $ (A-\lambda_0 I)^2=O$ である(実際 $ \lambda_0$ は固有方程式の 重根だから、固有多項式 $ =(\lambda-\lambda_0)^2$. ゆえに Hamilton-Cayley の定理から $ (A-\lambda_0 I)^2=O$.)。よって $ (A-\lambda_0 I)u_1=(A-\lambda_0 I)^2 u_2=0$ すなわち $ A u_1=\lambda_0
u_1$.

これと $ A u_2=u_1+\lambda_0 u_2$ から $ P=(u_1\; u_2)$ とおくと、 $ A
P=A(u_1\; u_2)=(A u_1\; A u_2)=(\lambda_0 u_1\; u_1+\lambda_0
u_2)=(u_1\; u_2)\ttmat{\lambda_0}{1}{0}{\lambda_0}=
P\ttmat{\lambda_0}{1}{0}{\lambda_0}$. $ u_1$, $ u_2$ は一次独立 だから $ P^{-1}$ が存在して、 $ P^{-1}A
P=\ttmat{\lambda_0}{1}{0}{\lambda_0}$. これから

$\displaystyle P^{-1}A^n P
=\ttmat{\lambda_0^n}{n{\lambda_0}^{n-1}}{0}{\lambda_0...
...^{t A}
=P\ttmat{e^{\lambda_0 t}}{t e^{\lambda_0 t}}{0}{e^{\lambda_0 t}}P^{-1}.
$

(III) 相異なる 2 虚根 $ \lambda=\alpha\pm i\beta$ ( $ \alpha, \beta \in\R$, $ i=\sqrt{-1}$) を持つ場合

$ \alpha+i\beta$ に属する固有ベクトルの一つを $ x+i y$ ( $ x,y\in\R^2$) とする。 $ A(x+i y)=(\alpha+i\beta)(x+i y)=(\alpha x-\beta y)+i(\beta x+\alpha y)$ の実部、虚部を取ると、 $ A x=\alpha x-\beta y$, $ A y=\beta x+\alpha y$, それで $ P=(x\; y)$ とおくと、 $ P^{-1}A P = \ttmat{\alpha}{-\beta}{\beta}{\alpha}
$. これから

$\displaystyle P^{-1}e^{t A} P =
e^{\alpha t}\ttmat{\cos\beta t}{-\sin\beta t}
{\sin\beta t}{ \cos\beta t}.
$

これから $ \alpha=0$ ならば、 $ e^{t A}\vec x_0$$ t$ に関する周期関数で あることが分かる(解軌道は楕円になる)。$ \alpha>0$ ならば $ e^{t A}\vec x_0$ は段々原点から遠ざかり、$ \alpha<0$ ならば $ e^{tA}\vec x_0\to \vec
0$ ( $ t\to\infty$) であることも分かる。


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Masashi Katsurada
平成18年4月28日