2.2 これまでに解読できたこと

手短にまとめると、 Napier は、現代の理工学者ならば微分方程式を使うに違いないような、 仮想的な運動により対数を定義しました。 (Napier はガリレオとほぼ同時代人で、 微積分が存在しない時代に活躍した人なので、 時代を超越したことをやり遂げたように思われます)、

$ 10^7$ の長さの線分 $ P_0O$ を考える。 初速度 $ 10^7$ $ P_0$ をスタートし、 $ O$ に向かう動点 $ P$ を考える。 動点 $ P$ の速さは $ PO$ の長さに等しいとする。 一方で別の線分上を,$ L_0$ から一定速度 $ 10^7$ で動く点 $ L$ を考える。 同じ時間経過したときの動点 $ P$ と動点 $ L$ の位置を それぞれ $ x = P O$ , $ y = L_0L$ とおくとき $ y$ $ x$ の関数とし、 このとき $ y$ $ x$ の対数という。

\includegraphics[width=12cm]{eps/napierlog.eps}
現代の理工系の人間ならば当然

(1) $\displaystyle x(0)=10^7,\quad \frac{d x}{d t}(t)=-x(t).$

この解は

$\displaystyle x(t)=10^7 e^{-t}.$   ゆえに$\displaystyle \quad t=-\log\frac{x}{10^7}.
$

一方 $ y(t)=10^7 t$ であるから、

$\displaystyle y=-10^7\log\frac{x}{10^7}.$   ゆえに$\displaystyle \quad
\frac{y}{10^7}=-\log\frac{x}{10^7}.
$

つまり Napier の対数を $ \mathrm{Nap Log}$ と書くことにすると、

$\displaystyle \mathrm{Nap Log}\; x=-10^7\log\frac{x}{10^7}=10^7\log_{1/e}\frac{x}{10^7}.
$

しばしば、Napier の対数は底が $ \dfrac{1}{e}$ であると言われますが、 そう言われる理由も分ります (ただし底という概念があったわけでもないし、 $ e$ $ 1/e$ の数値が出て来るわけではない) なるのはもっともに思えます。

Napier は20年かけて数値計算することで対数表 (正確に言うと、 7桁精度の三角関数の対数の表) を作成しました。 $ 10^7$ による乗除算があるのは、小数を避けるための工夫です。

桂田 祐史
2017-04-29