3.7 田所大樹「流体中に置かれた回転円柱の運動 サッカーボールの軌道 」

田所君はサッカーが趣味で、変化球のシミュレーションの話を振ったら、 興味を持ったので、 以前から注目していた野地 [13] を読むことをすすめた。 [13] では、野球のカーブが念頭にあったようだが、 田所君はサッカーボールのシュートのシミュレーションを目標においた。 [13] のトレースを続けていく途中でタイムアップとなった。

実は [13] において、 実際の野球に相当する条件での計算は出来ていない。 田所君の数値計算も、実際のサッカーボールのシュートに相当する条件での 計算は実現できていない (Reynolds数が大き過ぎる)。 リアルな問題を扱うのは大変である。 その点を打破するには、 安定して計算するための工夫を導入する必要があると思われる。 挑戦者が現れることを望む。


この研究の過程で、以下のことを学んだ。

ボールの直径は $ d=22\;\mathrm{cm}$ , 大人のシュートスピードは $ U=80\;\mathrm{km/h}$ , 回転の速さは毎秒 $ 5\sim10$ 回転という数値を採用した。

無次元化するため、代表的な長さ $ L$ として $ d$ , 代表的速さとして $ U$ を採用した。 Reynolds数は

$\displaystyle R_$e$\displaystyle =\frac{\rho U L}{\mu}
=\frac{1\times10^{3}\times 22.2\times }{}
$

以下では無次元化した方程式のみを示す。

実際には、ボールが移動するので、流体の占める領域は時間変化するが、 それでは計算が面倒なので、ボールの位置を原点に取る座標系を採用する。 それは慣性系なので見かけの力は現れない。

また、有限要素法では無限領域を扱うことは難しいので、 ボールから十分離れたところに仮想的な境界を設け、 それに囲まれた有界な領域で計算を行う。

      $\displaystyle I:=(-2,10),\quad J:=(-1,1),$
      $\displaystyle \Omega:=\left(I\times J\right)\setminus G,$
      $\displaystyle G:=\left\{(x_1,x_2)\in\mathbb{R}^2\relmiddle\vert x_1^2+x_2^2\le 1\right\},$
      $\displaystyle \gamma_i:=\left\{(-2,x_2)\relmiddle\vert x_2\in\overline{J}\right\},$
      $\displaystyle \gamma_o:=\left\{(10,x_2)\relmiddle\vert x_2\in\overline{J}\right\},$
      $\displaystyle \gamma_w:=\left\{(x_1,-1)\relmiddle\vert x_1\in\overline{I}\right\} \cup \left\{(x_1,1)\relmiddle\vert x_1\in\overline{I}\right\}$

($ \gamma_i$ から空気が流入する。$ \gamma_o$ から流出する。)

流速 $ \bm{u}=\bm{u}(x,t)=\begin{pmatrix}u_1(x,t)\\
u_2(x,t)\end{pmatrix}$ , 圧力 $ p=p(x,t)$ を求める。

(1)   $\displaystyle \frac{\rd\bm{u}}{\rd t}+\left(\bm{u},\nabla\right)\bm{u} =-\nabla p+\nu\left(\Laplacian\bm{u}+\nabla(\nabla\cdot\bm{u})\right)$   (in $ \Omega\times(0,\infty)$ )$\displaystyle ,$
(2)   $\displaystyle \nabla\cdot\bm{u}=0$   (in $ \Omega\times(0,\infty)$ )$\displaystyle ,$
(3)   $\displaystyle \bm{u}=\begin{pmatrix}U \\ 0 \end{pmatrix}\quad \text{($(x,t)\in\gamma_i\times(0,\infty)$)},$
(4)   $\displaystyle \bm{u}=\begin{pmatrix}-2\pi\eps y \\ 2\pi\eps x \end{pmatrix}\quad \text{($(x,y,t)\in \rd G\times(0,\infty)$)},$
(5)   $\displaystyle \sigma(\bm{u},p)\bm{n}=\bm{0}$   ( $ (x,t)\in\gamma_o\times(0,\infty)$ )$\displaystyle ,$
(6)   $\displaystyle \bm{t}\cdot\sigma(\bm{u},p)\bm{n}=0,\quad \bm{u}\cdot\bm{n}=0$   ( $ (x,t)\in\gamma_w\times(0,\infty)$ )$\displaystyle .$

ただし

      $\displaystyle \nu=\frac{1}{R_\text{e}},$
      $\displaystyle \sigma(\bm{u},p)=-pI+2\nu D(\bm{u}),$
      $\displaystyle I=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix},\quad D(\bm{u})= \l...
...rd x_2}+\frac{\rd u_2}{\rd x_1}\right) & \frac{\rd u_2}{\rd x_2} \end{pmatrix}.$

ここで $ \bm{n}$ , $ \bm{t}$ は境界上の点における外向き単位法線ベクトル、 単位接線ベクトルを表す。

$\displaystyle U=1,\quad \eps=0.04$   (毎秒$ 8$ 回転に対応)$\displaystyle .$

(5) は通常「応力境界条件」と呼ばれる。 $ \bm{n}=\begin{pmatrix}1 \\ 0
\end{pmatrix}$ であるから、成分表示すると

$\displaystyle \begin{pmatrix}
-p \\ 0
\end{pmatrix} +2\nu
\begin{pmatrix}
\...
...d u_2}{\rd x_1}
\right)
\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}
0 \\ 0
\end{pmatrix}$

整理すると

( % latex2html id marker 1426 $ \ref{eq:応力境界条件}'$ ) $\displaystyle p=2\nu\frac{\rd u_1}{\rd x_1},\quad \frac{\rd u_1}{\rd x_2}+\frac{\rd u_2}{\rd x_1}=0$   ( $ (x,t)\in\gamma_o\times(0,\infty)$ )$\displaystyle .$

(6) は通常「すべり境界条件」と呼ばれる。 $ \bm{n}=\begin{pmatrix}0 \\ 1
\end{pmatrix}$ , $ \bm{t}=\begin{pmatrix}1 \\ 0
\end{pmatrix}$ であるから、成分表示すると

$\displaystyle \begin{pmatrix}1 \\ 0 \end{pmatrix} \cdot
\left(
\begin{pmatrix...
...
\right)\\
\frac{\rd u_2}{\rd x_2}
\end{pmatrix} \right)
=0,\quad
u_2=0.
$

整理すると

( % latex2html id marker 1439 $ \ref{eq:すべり境界条件}'$ ) $\displaystyle \frac{\rd u_1}{\rd x_2}+\frac{\rd u_2}{\rd x_1}=0,\quad u_2=0$   ( $ (x,t)\in\gamma_w\times(0,\infty)$ )$\displaystyle .$

(書きかけ)

桂田 祐史
2018-06-08