2 事象と集合

この講義では、確率を数学的に扱うために集合の言葉で記述する。

サイコロを一回ふって出る目を調べるという試行では、 ($ 1$ の目が出ることを単に $ 1$ と表わすようにすると5) 結果は $ 1$, $ 2$, $ 3$, $ 4$, $ 5$, $ 6$$ 6$ 通りある。このとき、 $ 1$, $ 2$, $ 3$, $ \cdots$, $ 6$標本点 (sample point) と呼び、 標本点全体の集合 $ \{1,2,\cdots,6\}$標本空間 (sample space) と呼ぶ。

ある試行の標本空間が有限集合であるか、無限集合であるかに従って、その 試行を有限試行 または無限試行と呼ぶ。


\begin{jremark}[現代的な確率論は無限試行を扱うためにある]\up...
...ace レベルの確率論で十分ということになる。 \qed
\end{jremark}

この講義では、第 9 節までは有限試行だけを考える

$ U$ をある試行 $ T$ の標本空間とするとき、$ U$ の部分集合 $ A$ に対して、 $ T$ の結果として $ A$ に属する標本点が出現することを簡単に「$ A$ がおこ る」という。そこで、$ U$ の部分集合 $ A$ をじしょう 事象 (event) $ A$ と呼ぶ。

ただ一つの標本点だけからなる事象を根元事象 (elementary event) と呼ぶ。

例えば、上のサイコロをふる例で、根元事象は

$\displaystyle \{1\},
\{2\},
\{3\},
\{4\},
\{5\},
\{6\}
$

$ 6$ 個である。

標本空間全体そのものの表わす事象を、 全事象 (total event) と 呼ぶ。

空集合の表わす事象を空事象 (empty event) と呼び、$ \emptyset$ または $ \phi $ で表わす。

集合算の復習
集合について集合算がある。復習しておこう。ある集合 $ U$ の部分集合 $ A$, $ B$ について、
合併集合 (和集合, union)
$ A\cup B=\{x; x\in A$   または$ x\in B\}$.
共通部分 (積集合, product, intersection)
$ A\cap B=\{x; x\in A$   かつ$ x\in B\}$.
差集合
$ A\setminus B=\{x; x\in A$   かつ$ x\not\in B\}$.
補集合 (complement)
$ \overline A=U\setminus A=\{x; x\in U$   かつ$ x\not\in A\}$.
(この補集合の記号はあまり一般的でない。本によっては $ A^c$ で表わす。)

一つの有限集合の部分集合全体の集合は、集合算 $ \cup$, $ \cap$, $ \overline{}$ に関して、Boole 代数をなす。特に以下の二つの法則が成り立 つことに注意しよう。

1. 分配法則

$\displaystyle A\cup (B\cap C)= (A\cup B)\cap (A\cup C),\quad
A\cap (B\cup C)= (A\cap B)\cup (A\cap C).
$

2. ドDe モルガンMorgan の法則

$\displaystyle \overline{A\cup B}=\overline A\cap \overline B,\quad
\overline{A\cap B}=\overline A\cup \overline B.
$

ここに現われた集合は、標本空間の部分集合なので、やはり事象である。そ れに名前をつけておく。

$ A$, $ B$ を事象とする。

  1. 和集合 $ A\cup B$$ A$, $ B$和事象 (sum event) と呼ぶ。
  2. 積集合 $ A\cap B$$ A$, $ B$積事象 (product event) と呼ぶ。
  3. 差集合 $ A\setminus B$$ A$, $ B$差事象 と呼ぶ。
  4. $ A$ の補集合 $ \overline A$$ A$余事象 と呼ぶ。

事象 $ A$$ B$ が互いに排反する $ \DefIff$ $ A\cap
B=\phi$. ($ A$$ B$ が同時には起こらない、ということ。事象 $ A$ は事象 $ B$排反事象 (exclusive events) であるという。)



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桂田 祐史