5.1.2.1 例題8-1

次の力学系の流れの様子を $ -4\le x,y\le 4$ で描きなさい:

(2) $\displaystyle \frac{d}{dt}{x \choose y}={y\choose -6x-y-3x^2}.$

まず最初に平衡点を求めましょう。方程式の右辺のベクトル値関数 $ f$0 になるという条件、つまり連立方程式

$\displaystyle y=0, \quad -6x-y-3x^2 = 0
$

を解くと、 $ (x,y)=(0,0),(-2,0)$ となりますから、 $ 0\choose 0$, $ -2\choose 0$ という2点が平衡点です(それ以外に平衡点はありません)。「 $ -4\le x,y\le 4$ で描きなさい」としたのは、その二つの平衡点のまわりの様子が分かるような 範囲で描きなさい、という意味です。

さて、これを実行するには前回のプログラムをちょっと修正すれば OK です。 そうして作ったプログラムreidai8a.fを用意してあります。いつもの ようにgetsampleコマンドで手元にコピーした後に、コンパイルして実 行してみましょう。ここではサンプルの入力データを収めたファイルrei8a.data もありますので、それを使って試すことにすれば、
ターミナルで実行 (入手, コンパイル, 実行)
curl -O http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/program/ode_prog/reidai8a-glsc.c
cglsc reidai8a-glsc.c
./reidai8a-glsc.c
範囲(xleft,ybottom,xright,ytop)?
-4 -4 4 4
この後は reidai7-1 と同様に操作できます。 あるいは、こちらが用意したサンプル・データ rei8a.data を使って
curl -O http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/program/ode_prog/rei8a.data
cat rei8a.data | ./reidai8a-glsc
としても OK です。

図: $ \frac{d}{dt}{x \choose y}={y\choose -6x-y-3x^2}$
Image reidai8a
さて、これを見て何に気がつくでしょうか?全体としては、 これまで見たことがない図ですが、平衡点の近くでは、 「どこかで見た」形をしていますね?

$ 0\choose 0$ の回りでは安定渦状点、 $ -2\choose 0$ の回りでは不安定結 節点のような流れになっています。

大事なことは二つあって、一つは

平衡点は力学系の「ツボ」であって、
それを調べると多くの情報が分かる。
というものです。 上の図で平衡点から離れたところは、 かなり単純な流れになっていることに注意して下さい。 試しに描く範囲を大きくとって、 自分でマウスを使って初期値を与えた図を描いてみるのもいいですね。 次の例では $ -100
\le x, y \le 100$ の範囲で描くように指定しています (基本的な使い方はこれまでと同じなので、もう説明は不要ですね?)。
% ./reidai8a-glsc
 範囲(xleft,ybottom,xright,ytop)?
-100 -100 100 100
 したいことを番号で選んで下さい。
  -1:メニュー終了, 0:初期値のキーボード入力, 1:初期値のマウス入力,
   2:change h,T(h= 0.0100,T=10.0000)
1
 マウスの左ボタンで初期値を指定して下さい(右ボタンで中止)。

もう一つの大事なことは、平衡点の周囲の流れがどうなるかは、 微分法を使ってある程度まで解析できるということです。 上の例題の右辺の $ f$ を微分してヤコビ行列を作ると、

$\displaystyle \left(
\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
-6-6x & -1
\end{array}\right)
$

となりますが、平衡点 $ 0\choose 0$, $ -2\choose 0$ での値はそれぞれ

$\displaystyle A_1=
\left(
\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
-6 & -1
\end{array}\...
...
\quad
A_2=
\left(
\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
6 & -1
\end{array}\right)
$

となります。 $ 0\choose 0$ の回りでの流れは $ \dsp\frac{dx}{dt} = A_1x$ の原点での流れに、 $ -2\choose 0$ の回りでの流れは $ \dsp \frac{dx}{dt} =
A_2x$ の原点での流れに似ている、ということです。



桂田 祐史