1 はじめに

紐の長さが $ \ell$ である単振り子 (たんしんし単振子, simple pendulum) の運動方程式は、 $ m$ を重りの質量、$ g$ を重力加速度として

$\displaystyle m\ell \theta''(t)=m g \sin\theta(t)
$

となる。これから

(1) $\displaystyle \theta''(t)+\omega^2\sin\theta(t)=0,\quad \omega:=\sqrt{\frac{g}{\ell}}$

という微分方程式が得られる (ここに $ m$ は出て来ないので、単振り子の運動は質量には依らない、 ということはすぐ分かる)。

微小振動 ( $ \vert\theta\vert\sim 0$ ) の場合は、 $ \sin\theta$ $ \theta $ に近いので、 単振り子の運動は

$\displaystyle \theta''(t)+\omega^2\theta(t)=0
$

に従う単振動で良く近似できる、とされる (高校物理の相場)。 単振動は (大学の理系の学科では) 「常識的」で1、一般解は

$\displaystyle \theta(t)=C_1\cos\omega t+C_2\sin\omega t$   $\displaystyle \mbox{($C_1$, $C_2$ は任意定数)}$

であり、これは周期

$\displaystyle T=\frac{2\pi}{\omega}=2\pi\sqrt{\frac{\ell}{g}}
$

を持つ周期関数である、と明解に解ける。 この周期が $ g$ $ \ell$ だけで決まることから、 「振り子の等時性が成り立つ (周期は振幅によらない)」ということにもなる。


しかし、単振動で近似するのはあくまでも近似である。 どうして近似を用いた説明が多いのかというと、 近似しないで解くのが難しいからである (後で見るように、解や周期を表すのに、 楕円関数、楕円積分というものが必要になる2)。 この文書の目的は、 本来の振り子の運動 (微分方程式 (1) の解) がどうなるか (近似を用いずに)、きちんと考えてみよう、 ということである。


単振り子は、 単振動ではないとすると、 本当に周期運動をするか?と心配となるが、 次節でも証明するエネルギー保存則

$\displaystyle \frac{1}{2}\theta'(t)^2-\omega^2\cos\theta(t)=$定数

より大丈夫であることが分かる (戻ってきた時、前と同じ速さであり、減衰したりはしない 3

図 1: 横軸 $ \theta $ , 縦軸 $ \theta '$ . 閉曲線は、行ったり来たり。勢いが良いとぐるぐる (振り子じゃない!)。
\includegraphics[width=15cm]{furiko.eps}


ガリレオが発見したという『振り子の等時性』は、 実は厳密には成立しない性質であるが (つまり周期は本当は振幅による)、 どの程度成り立っているものなのかも、 明らかにしよう (目で見て分かるようにする -- 後の図 5)。

桂田 祐史
2017-08-11