A..2.1.1 寝た子を起こす話

常微分方程式の講義で、 2階の線型常微分方程式

$\displaystyle y''+p(x)y'+q(x)y=0
$

の解空間は $ 2$ 次元の線型空間であるという定理を学んだかもしれないが、 そこでは係数 $ p(x)$ , $ q(x)$ は普通の意味で素直な関数となっていたと思われる。 我々が扱っている Bessel の微分方程式は 0 が係数の特異点になっているので、 上の定理をそのまま使って一丁あがり、というわけにはいかない。 きちんと議論するには、 まず特異点 0 を除いた区間 $ [a,b]$ ( $ 0<a<b<\infty$ ) に制限して考える。 ここでは上の定理が使えて解空間は$ 2$ 次元の線型空間であり、 関数の組 $ \{\varphi_1,\varphi_2\}$ が存在して、 任意の解 $ y$ に対して、$ C_1$ , $ C_2$ が一意的に存在して

(4) $\displaystyle y=C_1\varphi_1+C_2\varphi_2$

が成り立つ。 $ \varphi_1$ , $ \varphi_2$ $ \Omega
:=\C\setminus\{x; x\le 0\}$ まで正則に拡張できる。 これも証明を要することではあるが、 それほど難しいことではない (線形だから解は定義域の端まで延長できる) し、 我々の場合の $ J_\nu(z)$ , $ Y_\nu(z)$ はそのことを 直接確認することもできるので、省略する。

さて、こうして拡張した $ \varphi_1(z)$ , $ \varphi_2(z)$ は微分方程式の解になる (一致の定理による)。 微分方程式は線形同次であるから、 その線型結合 $ y$ もやはり微分方程式の解になる。

逆に $ \Omega$ で微分方程式をみたす $ y$ があったとき、 それを $ [a,b]$ に制限すると、 すでに述べたことから、適当な $ C_1$ , $ C_2$ が存在して (4) が成り立つ。 ここで関数関係の延長原理 (これも一致の定理による) を用いると、 $ \Omega$ 全体で (4) が成り立つことが分かる。

桂田 祐史
2017-11-20