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2.5 少し凝った例

(たまたま昨日のゼミで使ったので。)

$\arctan$ の Maclaurin 展開

\begin{displaymath}
\arctan x=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\cdots
=\sum_{n=0}^\infty (-1)^n\frac{x^{2n+1}}{2n+1}
\end{displaymath}

を用いて円周率 $\pi$ を表す色々な無限級数を作ることができる。

有名なのが $x=1$ とおいてできるマーダヴァ・グレゴリー・ライプニッツ級数 である:

\begin{displaymath}
\frac{\pi}{4}=\arctan 1
\quad\mbox{より}\quad
\pi=4\arcta...
...rac{1}{1}-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots
\right).
\end{displaymath}

これは印象的であるが、 収束は極端に遅く、$\pi$ を計算する目的にはまったく使い物にならない。

絶対値の小さい $x$ を選ぶと実用的な公式が得られる。 例えば $\tan\pi/6=1/\sqrt{3}$ より

\begin{eqnarray*}
\pi&=&6\arctan\frac{1}{\sqrt{3}}
=6\sum_{n=0}^\infty\frac{(-...
...t 5}
-\frac{1}{3^3\cdot 7}+\frac{1}{3^4\cdot 9}-\cdots
\right)
\end{eqnarray*}

Abraham Sharp は $210$ 項まで足し合わせて、 小数点以下 100 桁以上の円周率の値を求めたという。

\begin{displaymath}
s_n:=2\sqrt{3}\sum_{k=0}^n\frac{1}{(-3^k)(2k+1)}
\end{displaymath}

とおき、$s_n$ を計算する関数を作ってこのことを確かめよ。

 s[n_]:=2\Sqrt[3]Sum[1/((-3)^k*(2k+1)),{k,0,n}]
 s[210]
 N[%,200]
 %-Pi
 ns[n_]:=N[s[n],1000]
 match[n_]:=-1.0*Log[10,Abs[ns[n]-Pi]]
 ListPlot[Table[match[n],{n,210}]]

L.Euler (超有名数学者) は次の公式を 1737 年に得た。

\begin{displaymath}
\frac{\pi}{4}=\arctan\frac{1}{2}+\arctan\frac{1}{3},\quad
\pi=20\arctan\frac{1}{7}+8\arctan\frac{3}{79}.
\end{displaymath}

John Machin (1680-1752, ロンドン大学天文学教授) は

\begin{displaymath}
\frac{\pi}{4}=4\arctan\frac{1}{5}-\arctan{1}{239}
\end{displaymath}

を用いて 100 桁の値を計算した。この公式は以後多くの人達に採用され続ける。 人手での $\pi$ の計算の記録としては、 William Shanks (1812-1882) が 707 桁計算した (567桁までが正しかった) の が最高だが、彼もこの公式を使った。

C.F.Gauss (数学界の巨人) は 1863 年に以下の公式を得た。

\begin{displaymath}
\frac{\pi}{4}=12\arctan\frac{1}{18}
+8\arctan\frac{1}{57}-5\arctan\frac{1}{239},
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
\frac{\pi}{4}=12\arctan\frac{1}{38}+20\arctan\frac{1}{57}
+7\arctan\frac{1}{239}+24\arctan\frac{1}{268}.
\end{displaymath}

前者はおそらく 3 項の $\arctan$ で表される公式のうちで最も効率が高いらしい。

2005年現在の最高記録は、 2002年12月、金田康正、うしろ後やすのり保範等の グループが達成した 1 兆 2400 億桁というものだが、 それは高野喜久雄の公式

\begin{displaymath}
\frac{\pi}{4}=12\arctan\frac{1}{49}+32\arctan\frac{1}{57}
-5\arctan\frac{1}{239}
+12\arctan\frac{1}{110443}
\end{displaymath}

による。(この話は WWW で検索すれば色々ヒットするので省略。)

(2006年4月7日注: あわてんぼうで分数コマンド ¥frac を 書き落してしまって、変な公式を掲示していたのを指摘されて修正しました。 罪滅ぼしをかねて: 円周率に関しては 2005 年度卒研でも取り上げました。 卒研レポートを http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/labo/report/#2005で公開しています。)


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Masashi Katsurada
平成20年10月18日