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A..5.1 LU 分解

最初に二つの言葉を定義する。

行列 $L=(\ell_{ij})$下三角行列 (lower triangluar matrix) であるとは、対角線の上にある成分がすべて $0$ である、つまり

\begin{displaymath}
i>j\quad\Then\quad \ell_{ij}=0
\end{displaymath}

が成り立つことと定義する。

同様に、$U=(u_{ij})$上三角行列 (upper triangular matrix) であるとは、 対角線の下にある成分がすべて $0$ である、つまり

\begin{displaymath}
i<j\quad\Then\quad u_{ij}=0
\end{displaymath}

が成り立つことと定義する。

目で見えるように書くと

\begin{displaymath}
L=
\left(
\begin{array}{ccccc}
\ell_{11} & 0 & \cdots&\c...
...dots & 0 & \ddots & \\
0 & 0 & & u_{nn}
\end{array} \right)
\end{displaymath}

ということである。

LU 分解
行列 $A$ に対して、

\begin{displaymath}
A = L U
\end{displaymath}

を満たす下三角行列 $L$ と上三角行列 $U$ を求めることを (これはいつもできるとは限らない -- 後述)、 $A$LU 分解すると呼ぶ。

Gauss の消去法の前進消去段階では、 係数行列に行に関する基本変形を施して上三角行列 (それを $U$ とおく) に 変形したが、 行に関する基本変形は、基本行列を左からかけることで表現できる。 Gauss の消去法では、これら基本行列はすべて正則な下三角行列である。 そこで、この変形は

\begin{displaymath}
L_k \cdots L_2 L_1 A = U
\quad\mbox{($L_j$ は正則な下三角行列, $U$ は上三角行列)}
\end{displaymath}

とかける。これから

\begin{displaymath}
A={L_1}^{-1}{L_2}^{-1}\cdots {L_k}^{-1}U
\end{displaymath}

となるが、 $L:={L_1}^{-1}{L_2}^{-1}\cdots {L_k}^{-1}$ は実は下三角行列である。 これは次の補題から分かる。

\begin{jlemma}\upshape
\begin{enumerate}[(1)]
\item
下三角行列全体は和と積に関...
...ゆえに正則な下三角行列全体
は乗法について群をなす)。
\end{enumerate}\end{jlemma}

さて、それでは Gauss の消去法はいつでも出来るかというと、 (掃き出し法との類推ですぐ分かるように) 対角成分に $0$ が現われたらダメになるわけである。 この場合は、行を適当に交換することで消去が出来るようになる。

\begin{jproposition}\upshape
$A$ を $n$ 次正則行列とする。
\begin{enumerate}[...
...aymath}
P A=L U
\end{displaymath}が成り立つ。
\end{enumerate}\end{jproposition}

正則行列 $A$ の LU 分解はたとえ存在しても一意ではないが、 $A$

\begin{displaymath}
A = L D U\quad
(\mbox{$L$ は対角成分が $1$ の下三角行列、
$U$ は対角成分が $1$ の上三角行列、
$D$ は対角行列})
\end{displaymath}

の形に分解する LDU 分解は一意である。


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Masashi Katsurada
平成20年10月18日