B..6 代用電荷法による近似等角写像

$ \Omega$ は、 複素平面内の滑らかな Jordan 曲線 $ \Gamma$ で囲まれた Jordan 領域とする。 任意に選んだ $ z_0\in\Omega$ に対して、 Riemann の写像定理により、 $ \Omega$ を単位円板領域 $ D_1:=\left\{w\in\mathbb{C}\relmiddle\vert \left\vert w\right\vert<1
\right\}$ の上に写す等角写像 $ \varphi\colon\Omega\to D_1$ で、

(B.20) $\displaystyle \varphi(z_0)=0,\quad \varphi'(z_0)>0
$

を満たすものが一意的に存在する。 (5.1) は正規化条件と呼ばれる。

$ \varphi$ は、 $ \overline\Omega$ から $ \overline{D_1}$ の上への同相写像に拡張される (Carathéodory の定理)。

関数 $ \dfrac{\varphi(z)}{z-z_0}$ (ただし $ z=z_0$ では $ \varphi'(z_0)$ という値を取ると考える) は $ \overline{\Omega}$ 上の関数として定義されて、 $ \Omega$ で正則であり、0 にはならない。$ \Omega$ は単連結であるから、 正則関数 $ f\colon\Omega\to D_1$ が存在して、

$\displaystyle \frac{\varphi(z)}{z-z_0}=\exp f(z)$   $\displaystyle \mbox{($z\in D_1$)}$$\displaystyle .
$

すなわち

$\displaystyle \varphi(z)=\left(z-z_0\right)\exp f(z)$   $\displaystyle \mbox{($z\in D_1$)}$$\displaystyle .
$

$ u:=\MyRe f$, $ v:=\MyIm f$ とおく。 $ f=u+i v$ が成り立つ。

$ z\in\rd\Omega$ に対して、 $ f(z)\in\rd D_1$ であるから、

$\displaystyle 1=\left\vert\varphi(z)\right\vert
=\left\vert\left(z-z_0\right)\...
...ft\vert z-z_0\right\vert\exp\MyRe f(z)
=\left\vert z-z_0\right\vert\exp u(z).
$

ゆえに ($ \log$ を実関数としての対数関数として)

$\displaystyle u(z)=\log\frac{1}{\left\vert z-z_0\right\vert}=-\log\left\vert z-z_0\right\vert.
$

以上より、$ u$ は Laplace 方程式の Dirichlet 境界値問題

(B.21) $\displaystyle \Laplacian u=0$   in $ \Omega$$\displaystyle ,\quad u(z)=-\log\left\vert z-z_0\right\vert$   ( $ z\in\rd\Omega$)

の解であることが分かるので、一意的に決定される。 $ v$$ u$ の共役調和関数であることから、 例えば $ z_0$ での値 $ v(z_0)$ を定めれば良いが、 正規化条件 (5.1) のうちの第2の条件から $ v(z_0)
\equiv 0\pmod{2\pi}$ が導かれる ( $ \exp u(z_0)>0$ に注意すると、 $ \varphi'(z_0)=\exp u(z_0) \exp\left(i v(z_0)\right)$ が正であるためには、 $ \exp\left(i v(z_0)\right)=1$)。 $ v$ について $ 2\pi$ の整数倍の違いは、 $ \varphi$ の値に違いをもたらさないことに注意すると、 これで $ \varphi$ が決定されることになる。 そこで $ \varphi$ を得るには

(B.22) $\displaystyle v(z_0)=0$

としておけば良い。



桂田 祐史