(ひたすら脱線する。 色々面白い事実があるが、それをここで紹介することはしない。 何で今さらπを取り上げることが許されるか状況をしゃべってみたい。)
ずっと以前、 某学生に円周率をやりたい、と言われて「やめろ」と説得した覚えがある。 その当時は、円周率の数値計算は「終わっている」と理解していたのである。 しかし実はそれは勘違いであることが分かってきて、 今回相談されて OK を出すことになった。
円周率というと、 筆者が高校生のとき (1975頃) に書店で見つけた ペートル・ベックマン「πの歴史」 が面白い読み物である。 これが書かれたときから新しい発見が色々あって、 円周率の計算法は大きく変ってしまったのである。 この本が書かれた頃の世の中の認識は、 マチンの公式 ( 公式) によって計算することで十分であり、 後はコンピューターのパワー次第、ということだったと思う。
最近では、 ジャン・ポール・ドゥラエ「πの魅力」という読み物 (邦訳は2001年) が出ている。 例えばこの本では、 サラミン&ブレントの算術幾何平均アルゴリズム (1976) に代表される新しい方法が 公式を大幅に凌駕した、ということになっているが、 実はこのことも今では「古く」なってしまっている。
この文章を書いている2004年10月時点の円周率計算の世界記録は、 実は 公式を使って、 2002年12月「例の」金田氏によって達成されたものである。 それが可能になったのは、また DRM 法 (分割有理数化法, うしろ後やすのり保範による) という新しい発見があったからなのだが (後先生のWWWページを見ましょう)、 それがマスコミなどで大きく取り上げられたことはないみたい。 うーん。新しいスパコンでもなければニュースにしないのね。
この手の性能向上は、 コンピューター・システムの性能向上もさることながら、 アルゴリズムやソフトウェア上の工夫も大きく、 貢献度は半々くらいではないかと思うのだけどね。
ちなみに記録更新に使われた公式は、 詩人高野喜久雄氏によるものである (http://www.asahi-net.or.jp/~yp5k-tkn/, また共立出版の bit 1983年4月号への寄稿を見よ)。 ここらへんの選択はちょっと楽しい。
一応、本線に戻ると、 清水君は建部かたひろ賢弘 (1664-1739) の てつじゅつさんけい綴術算経 (1722) にある加速法の再現実験と それに対する考察をしている。
(また脱線)
この建部の計算については、 和田秀男『高速乗算法と素数判定法』 (上智大学講究録, 1983) という本で、 追試と分析がされているのが有名だけれど、 Mathematica が使える現在、学生が気軽に色々試せるのは時の流れを感じる (もっとも、分析は和田先生の方がずっと鋭い…これは比べる方が失礼か)。
綴術算経については、 和算の研究者である小川束氏の WWWページ http://www.tcp-ip.or.jp/~hom/に公開画像があって見ることができる。実にすばらしい。