常微分方程式の課題選び

桂田 祐史


Date: 2020年4月16日


自分で適当に探してもらえると嬉しいが、 手頃そうなものをあげておく (私がそれなりに知っているので、アドバイスしやすい)。

(1)
基本的な定数係数1階線形微分方程式

(1) $\displaystyle \frac{\D}{\D t} \begin{pmatrix}x  y \end{pmatrix} = A \begin{pmatrix}x  y \end{pmatrix},\quad A:= \begin{pmatrix}a & b c & d \end{pmatrix}$

と初期条件

$\displaystyle \begin{pmatrix}
x(0)  y(0)
\end{pmatrix} =
\begin{pmatrix}
x_0  y_0
\end{pmatrix}$

を合わせた初期値問題。 多くの具体的な現象のモデルとなっている。例えばバネ振り子

$\displaystyle m\frac{\D^2 x}{\D t^2}=-kx
$

や速度に比例する抵抗を考慮した

$\displaystyle m\frac{\D^2 x}{\D t^2}=-kx-\gamma\frac{\D x}{\D t}
$

は、

$\displaystyle y:=\frac{\D x}{\D t}
$

とおくことで (1) に帰着する。 数学の本に載っていることが多い。 さわりの部分は桂田 [1] の4節で読める。 力学系の平衡点の線形安定解析の基礎になっている。
(2)
強制振動 (前例に近い)

$\displaystyle x''(t)+x(t)=\sin\omega t.
$

ここで $ \omega$ は実数の定数とする。 共振が起こりうる。
(3)
単振り子の方程式

$\displaystyle m\ell \theta''(t)=-mg\sin\theta(t).
$

ここで $ m$, $ \ell$, $ g$ は正の定数である。 $ \theta$$ x$, $ \sqrt{\frac{g}{\ell}}$$ \omega$ と書くと

$\displaystyle x''(t)+\omega^2\sin x(t)=0.
$

振幅が小さいとき、単振動の方程式 $ x''+\omega^2 x=0$ に近いが、 振幅が大きいとずれてくる。 有名なので、色々な本に載っている。 桂田 [8] というノートもある。
(4)
2次元の力学系から2題。

$\displaystyle \frac{\D}{\D t}
\begin{pmatrix}
x  y
\end{pmatrix} =
\begin{pmatrix}
y  -6x-y-3x^2
\end{pmatrix}$

$\displaystyle \frac{\D}{\D t}
\begin{pmatrix}
x  y
\end{pmatrix} =
\begi...
...ix}
y  -x+\mu(1-x^2)y
\end{pmatrix} \quad\text{(van der Pol の方程式)}
$

(ここで$ \mu$ は正の定数). 力学系 $ \frac{\D x}{\D t}=f(x)$ の平衡点の安定性について ヤコビ行列 $ f'(x)$ の固有値の符号を調べるという話と、 limit cycle (極限閉軌道) の話。有名な話題。 桂田 [1] の5節で読める。
(5)
爆発する解を持つ問題。

$\displaystyle \frac{\D x}{\D t}=x^2$   ( $ t\in\mathbb{R}$)$\displaystyle ,\quad x(0)=1.
$

この方程式は $ t<1$ の範囲でしか解を持たず、 $ \dsp\lim_{t\to 1-0}x(t)=+\infty$ となる。 素朴に数値計算すると似ても似つかない数値を得る。 爆発する問題の数値計算はそれなりに工夫が必要で面白い。 色々な工夫が考えられるが、伊理・藤野 [8] に一つのヒントがある。
(6)
万有引力に従う天体の運動。 2体問題の場合に、Keplerの法則が得られることが有名 (しかし解軌道は比較的簡単な式で表せるが、解を表すのは難しい)。

桂田 [4] を見よ (これは藤田・齊藤 [8] の読書ノートのようなもので、 [8] を持っているのならば、そちらを読んだ方が良いかも。 あるいは、 富坂・花輪・牧野 [10] のような天文学の本を読むとか。)。

一般化して、三体問題、多体問題に取り組むのも面白いかも。 三体問題には、有名な特解が色々ある (SF にも時々出て来る)。 そういうのをシミュレーションするのに誰かチャレンジしないかな、 と考えている。 最近出た浅田 [11] なども面白く読めるかも。

(7)
Lotka-Volterraの方程式。

(2)   $\displaystyle \frac{\D x}{\D t}=ax-bxy,$
(3)   $\displaystyle \frac{\D y}{\D t}=-cy+dxy.$

ここで $ a$, $ b$, $ c$, $ d$ は正の定数である。 これは、被食者・捕食者の個体数の変化を表すモデルである。 有名なので多くの本に載っている。

簡単なところは、 桂田研の卒業研究レポート長谷川 [8] で読める。 [8] には、 三つの種を考えた一般化である May-Leonard のモデルも出て来る。

(8)
SIRモデル。 書籍では、 佐藤 [10], 稲葉 [10] など。
(9)
Lorenz アトラクター。 ローレンツ (Lorenz) による Lorenz アトラクター発見の物語は、 グリック「カオス -- 新しい科学をつくる」 [11] を見よ (私は楽しく読んだ)。 やさしい数学的解説として石村 [12] がお勧めである。 まあ、色々な本に載っているから、他の本で足りるかもしれないが。

(4) $\displaystyle \left\{ \begin{array}{ll} \dfrac{\D x}{\D t}=-\sigma x(t)+\sigma ...
...t)-y(t)-x(t)z(t) [1em] \dfrac{\D z}{\D t}=-bz(t)+x(t)y(t) \end{array} \right.$

ここで $ \sigma$, $ R$, $ b$ は正定数である。 Lorenz が選んだという値 $ (\sigma,R,b)=(10,28,8/3)$ で実験したのが下の図である。
図 1: Lorentアトラクター ($ \sigma=10$, $ R=28$, $ b=\frac{8}{3}$)
\includegraphics[width=5cm]{lorenz.ps}
(10)
渦糸系
卒業研究レポートから、 「渦糸の力学系」 (Javaプログラムが動かなくなっていて残念だけど。)
(11)
BZ反応の話はどこかで聞いたことがあるだろう。 空間分布を考えない、2変数版は

      $\displaystyle \eps\frac{\D x}{\D t}=x(1-x)-fz\frac{x-q}{x+q},$
      $\displaystyle \frac{\D z}{\D t}=x-z.$

数値計算には特に難しさはない。
(12)
空気中を運動するボールの運動。 色々な取り組み方が考えられるが、 誰かアデア [13] 読んで挑戦しないかな、と思っている。
(13)
ボウリングのボールの運動。剛体の運動の中で多分もっとも簡単。



桂田 祐史